第47話 紀恵の本懐

 こんな風に麗玖紗が麻美に最後通牒を突きつけたその時まで――


 紀恵はグループから離れて、己がモブであることを強く意識しながら……はかどっていた。

 

(私が好きなキャッキャウフフ空間がある! ……確かにまだまだギスギスしてるけど、安城さんも何だか以前ほどではないし遠藤さんも頑張ってる感じ)


 麗玖紗の勢いを弱めているのは、間違いなく紀恵の存在が遠因なのだが、それを認めるわけにはいかない紀恵が無意識下でカットしているのだろう。


 だが確かに、麗玖紗と麻美達が微妙に釣り合うようになってきているのは確かだ。

 少なくとも麗玖紗に押さえつけられたまま、という状態では無い。


(だんだん、言葉を交わし合うようになってきたし、こう言うのなんて言うんだっけ? ……そう! 過渡期って奴よね。それに盛本くんは「最初は大袈裟なぐらいで、それが小さくなっていって、ええ具合に収まる」って……あれ? これ、人間関係の話だったっけ?)


 恐らくは違う。


 とにかく紀恵は麗玖紗主導で行われる、この話し合いの本題そっちのけで、興奮状態であったのだ。

 そもそも、その本題すら把握していたのかどうか……


 だからこそ麗玖紗の最後通牒で、誰よりも驚いていたのは、もしかすると紀恵なのかも知れない。何しろイケメンへの「告白」なのである。それは紀恵の欲望の全くの逆。


 だがその動揺を紀恵は必死になって抑え込んでいた。


 モブにはモブのプライドがある、などと明文化していたわけではないが、紀恵の心境としては、そういうことになるだろう。

 つくづく常人では無い。


「……おい西山。何だよ、何かあるのか?」


 離れた場所にいる紀恵のわずかな変化に、麗玖紗が気づいたのはさすがと言うべきか。それとも慣れてきた、と言うべきか。

 さらに麗玖紗は続ける。


「これから告白って話になるんだ。彼氏持ちのアンタの意見は重要になる……かも知れねぇ。それに盛本もな」

「何となく理屈が通っているようで、無いようで……」


 麗玖紗の呼びかけに、亮平は首を捻りながら応える。

 しかし麗玖紗はそれに構わず、今度は弥夏と比奈子に話を振った。


「アンタらに彼氏がいても良いんだけどな。西山は西山として」


 紀恵を特別扱いというか、これ以上無いほどぞんざいに扱いつつ、麗玖紗が二人に確認する。

 そうすると二人は顔を見合わせることなく、同時に首を横に振った。


 ……それを見て、紀恵が「YES!」とばかりに握り拳を固めそうになっていたが、ギリギリで抑え込むことに成功したようだ。


 こうしてさらに麻美――そして紀恵までも含めて、外堀を埋めた麗玖紗。

 しかし、そこまで準備を整えて、麗玖紗にはどういった目論見があるというのだろう?


 この動きが梢がきっかけであることを忘れてはいけない。

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