第19話 昼休みの乱・転々

 とにかく紀恵の話を聞いてみなければ、何もわからないだろう。

 それは間違いないところなので、麗玖紗が促すとかなり理路整然とした説明が紀恵によって行われた。


 亮平と共に土曜日「森飯店」にラーメンを食べに行ったこと。

 今朝、その感想を麻美に話したこと。その時に、おかしな具合になった事。


 突き詰めれば紀恵の説明はそれだけだった。

 

 そして、問題点もはっきりしていると言っても良いだろう。今の説明で意味不意なところは一カ所だけだ。

 それをはっきりさせるため麗玖紗は改めて麻美に視線を向ける。


「で、アンタはラーメンのことを話していたんじゃないみたいね」


 それは大胆な決めつけと言っても良いだろう。

 しかし、そう決められてしまうと「他に考えようがないな」という納得に落ち着いてしまう。


 麗玖紗の仕切りには確かな力があった。

 その力に押されたように、麻美がゴクリと生唾を飲み込んだ。


「あさみん……」

「だ、だって、ラーメンなんかどうでも良いって思うに決まってるもの」


 比奈子の憐れむような声がきっかけになってしまったのだろう。

 堰を切ったように、麻美が言葉を紡いだ。


 だが、やはり意味は不明だった。麗玖紗が堀の深い眉根を寄せながら、さらに確認する。


「……ラーメンはどうでも良いとして、話の中心にあるのはそのラーメン屋のことで良いのね?」


 そんな麗玖紗の確認の仕方に、周囲が思わず唸っていた。

 思わず「なるほど」と呟くものまでいる。


 そして麻美も追い詰められたように頷いた。


「そ、そう。ラーメンのことじゃなくて、あのお店に行ったら、一番に気になるのはクリュウくんのことに決まってるもの」


 その麻美の言葉で弥夏と比奈子は大体の事情を察したようだ。

 なんとも微妙な表情を浮かべている。そして麗玖紗が目ざとく、弥夏達の変化に気付いた。


「わかったみたいだね。説明して」

「い、いや……ええとね……」


 弥夏が戸惑いながらなんとか言葉を濁そうとするが、麗玖紗の目力がそれを許さなかった。

 観念したように弥夏はため息をつく。


「……あたし達は見てないんだけどさ。クリュウって名前のイケメンがいるんだって。そのラーメン屋がどう関係しているのかわかんないけど」

「イケメンだぁ?」


 麗玖紗が忌々しげに吠える。

 その反応に麻美が思わず立ち上がった。なるほど、かなり入れ込んでいるらしいと周囲が即座に理解した。


 そして、その麻美を目力だけで抑え込む麗玖紗。

 だが、ここから先はどう話を進めれば良いのか……


「ああ、それじゃ、あの店員がそうなんだな。確かにイケメンだった。行列も女の人ばっかりだったし」


 亮平が不意に発言した。

 この事態がかなり正確に掴めたらしいと気付いて、思わず口に出してしまったようだ。


 そして、それを見逃す麗玖紗では無かった。

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