第20話 昼休みの乱・転々々

「そうだった。アンタもラーメン食べに行ったんだっけ」

「ああ、西山さんと食べに行ったからね」

「で、イケメンがいたと」

「そうだな。えらい美形がおるなぁ、とか、そんな事は考えてた。ラーメン旨かったし、それ以上は覚えて無いけど」


 不意に現れた亮平の関西弁に、少しだけペースが乱される。だが、確かにイケメンはいたらしいと理解した麗玖紗。

 だがそうなると、紀恵の反応が理解出来なくなる。


 麻美との会話で何かしらすれ違いがあったとしても、話している対象がラーメンと人間では違いすぎる。どこかで必ず「違うことを話してるな」と気付くはずなのだ。

 ところが紀恵はラーメンの話から一歩も踏み出すことはない。


 では、イケメンの存在が幻だったのではないか? という可能性が浮き上がってくるがこれも否定されている。

 それも紀恵の彼であるところの亮平の手によって。


 そして、ここまで事態が整理されると周囲もわけがわからなかった麻美の訴えを、雰囲気ではなくきちんと理解した上で受け止めることが出来るようになっていた。


「ほら! クリュウくんはちゃんといたでしょ? それなのに知らないふりをするなんて……独り占めとか考えてたのよ!」


 そんな教室内の雰囲気を麻美も感じ取ったのだろう。

 麻美が、改めて強い言葉で主張した。


 つまり、ラーメン店でスタッフとして働くとびきりのイケメンを紀恵は発見した。

 そこで、そのイケメンの存在を隠して独り占めしようと考えたからこそ、知らない振りをした。


 確かに、そういう理屈で考えれば、紀恵の対応のおかしさも説明出来る。


 もちろん、それでも「なぜ麻美が、紀恵がラーメン店に行ったのを知っているのか?」などの疑問が出てくるわけだが、それは触れなくても良いだろう。


 いや、触れるような隙が無かったと言った方が正しいのかもしれない。


 なぜなら――


「そういう風に考えてしまうの仕方がないのかもしれないけど、西山さんはちょっとおかしなところがあって……」


 本来なら紀恵が言い訳をするターンであるはず。

 ところが言い訳を開始したのは、亮平なのである。


 いったんは「これで決着か」と思われた教室の中の空気が再び緊張した。


「……西山さん、男に全く興味が無いから、全く覚えようとしないんだよね。いやそれより先に、男をいないもの扱いするんだよ。それも無自覚で。だから、あの美形が男であるなら、きっと覚えて無いよ」


 それは驚くべき証言と言えるだろう。

 教室全体が、ザワッ、と鳥肌を立てたような感触。


 そして西山紀恵よ、諦めろ。

 この瞬間、君が望むモブ扱いは見果てぬ夢となったのだ。


 君を見つめるクラスメイト達の視線を見よ。


 だが最も驚くべきは、亮平の証言に対して「それがどうした?」という態度もみせずに、麗玖紗を中心としたキャッキャウフフな妄想を止めようとしない君の変態振りだ。

 

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