第4話 あるいはありふれた展開
さて、ここで整理しておこう。
何しろこの鬼畜外道ペアの考え方は常人からかけ離れているので、どういう理由で行動しているのかが、わかりづらいからだ。
まず紀恵は女の子たちだけがキャッキャウフフしている状態が至高だと考えている。
男はいらないのである。
いや、さすがにキャッキャウフフだけでは無理がある。アクセントとしての多少のツンデレは許される。だが、それはそれで高度なキャッキャウフフだと紀恵は開き直っていた。
……という感じに、結局は紀恵の妄想なのでやりたい放題だ。
つまり、今の麻美たちは紀恵の妄想にとって“もってこい”の状態なのである。紀恵がその他大勢の一人として、キャッキャウフフ空間を端から眺めて堪能するには。
だが、そういった妄想にダメ出しするのが、紀恵の彼である亮平だ。
亮平は主張する。
認められない関係であるからこそ、百合は尊く素晴らしいものである。
何の制約も無い状態で、キャッキャウフフしてるだけの百合には魅力を感じない。
――と。
ここに紀恵のジレンマが発生する。
紀恵の百合妄想のきっかけ、いや根っ子にあるのは、言うまでもないことだが数々の創作物である事は言うまでもない。
そういった創作物の中には、亮平が言うような世界観の百合もあり、紀恵もそれは尊いものだとは感じているのである。
ただ、そんなギスギスした関係性の中で咲く百合は悲しすぎる、と紀恵は思うのだ。
出来ればそういう百合ではあってほしくない。
それは紀恵のわがままだろう。
だからこそ悲しそうなC組の佐々木の姿が紀恵には耐えられない。
なんとかしたい、と紀恵が決意したのはこういう理由によるものだ。
もちろん、その理由の大元には「自分が気持ちよく妄想したい」という、甚だ利己的な欲望があることは言うまでもない。
さらに言うまでもないことだが、麻美達が「百合」かどうかは判明していないのである。
つまりこの時、紀恵は現実と妄想の区別がついていない危険な状態であった。
そういった状態のままで、紀恵は五時間目が体育であったことを幸運と考え、秋瀬弥夏に接触したのである。
「えっと……西山さんだよね。まだ全員覚えきれてなくて」
「うん。そこは気にしてないから」
紀恵は走り幅跳びの順番待ちをする間に、麻美グループの一人、弥夏に声をかける。
そして、距離感を間違えたままの勢いで交友関係等を確認してゆき、ついに答えに辿り着いてしまった。
「ああ、盛本くんなんだよね。それに気付いたの……わかっちゃうか。うん、ちょっと今、あさみんとささこがややこしくなっててね。で、原因は男」
「え」
そして紀恵は、そんなごく当たり前の「原因」に意表を突かれてしまう。
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