第43話 ブルドーザーのように
明けて月曜日である。
もう桜の名残も無く、世間はゴールデンウィークに向けて、暖かくなってきた気候に押されるように浮き足立っているような雰囲気だ。
2年B組の雰囲気も浮き足立っているようにも見えたが、それは他のクラスのように、新しいクラスメイトと遊びに行こう――となる前の段階で引っかかっている状態だからなのである。
ゴールデンウィークに向けて、足を踏み出したいのに、その足が何かに引っかかっている。そのために力がたわんでしまった状態で気もそぞろ――結果、浮き足立っている雰囲気によく似た、落ち着かない雰囲気を生み出しているというわけだ。
その原因はもちろん紀恵と麗玖紗にある。
先週末に見せた二人の約束はどうなったのか? 何かしらの変化をB組にもたらすのでは無いかと、教室中で様子を窺っていた。
だが、朝も、昼休みにも目立った動きはなく、為我井先生が、
「……では、皆さん気をつけて……」
と、終礼の終わりを告げるまでB組は先週のままの雰囲気だったのである。
これは何も起きないな、と安堵と諦めが同時に教室に打ち寄せてきた瞬間――
「――遠藤! 用がある。教室に残りな。それに秋瀬と舟城もだ」
麗玖紗が麻美に呼びかけたのだ。
来たー! と教室中がなるわけだが、果たしてクラスメイトの多くは、その場に留まるだけの大義名分が無い。逆に麻美はさっさと逃げ出したいのだろう。目に涙を浮かべている。
「話が長くなりそうなんでな。アンタが油断する、放課後まで待ってたんだよ。安心しろ、いじめようってわけじゃない。これから、お……私がするのは『提案』みたいなもんだ。久隆って奴のな」
そんな泣きそうな麻美に、麗玖紗は構わずに言葉をぶつけてゆく。
だが、その言葉に如実に反応したのは、弥夏と比奈子の方だった。
梢とも連絡を取り合っている二人であるので、麗玖紗の変化に気付いたのだろう。何しろ“取り巻き”呼びが、名前呼びに変化している。
さらに、もしかして麗玖紗の豪腕で逼塞した今の状態を打ち破ってくれるのでは? と期待もしたのだろう。
だが、二人の期待はある意味では裏切られる――そう考えてしまっても無理はない台詞が、次に麗玖紗の口から飛び出した。
「西山。盛本にはちゃんと言ってるな?」
「大丈夫。盛本くんもOKだって。っていうか断るはずが無いよね」
そのまま紀恵は、トトト、と麻美に近付いていった。
「まぁまぁ、痛いことはないから。話を聞くだけだから――って、安城さんが言ってるから」
「なんでそんなにいかがわしく言うんだよ」
そんな紀恵に呼応するように麻美に近付きながら、呆れたようにツッコミを入れる麗玖紗。
この二人の関係も確かに変化していると感じさせるやり取りだった。
どちらかというと麗玖紗が紀恵の機嫌を窺っているようにも見える。
それにとどめを刺すように、紀恵はパタパタと手を振りながら、
「私は安城さんが何を言うつもりなのか聞いてないんだけどね。でもきっと大丈夫だよ!」
と無責任に言い放った。
それを聞いて、麻美達の表情が一斉に曇る。
だがそれは、麗玖紗も同じ事だった。
「……コイツを混ぜた方が手早く終わると考えた俺がバカだった……」
と、放埒な髪を掻きむしりながら独りごちたのであるから。
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