第44話 朗報にしておこう
麗玖紗の圧が、紀恵が一緒にいることで幾分かは弱められている。
そのことが麻美にこの場に留まることを選択させたのなら、それは皮肉とも言えるだろう。
何しろ、かつて一方的に攻撃した紀恵に救われた形になるのだから。
そして麗玖紗の切り出しも、まずは紀恵についてだった。
「この女、マジで盛本以外の男、わかってねぇぞ」
と。
麗玖紗は、まとまって椅子に座っている麻美達三人を見下ろすような形で、机の上に腰掛けていた。
ちなみに紀恵は、少し離れた場所で後ろ手に腕を組んで少し離れた場所に立っていた。紀恵自身が思う“モブっぽさ”を意識しているのだろう。
亮平はさらにその後ろで、足を組んで椅子に座っていた。
他に直接には関係が無いクラスメイト数名が“何となく”グループになっている。他のことを話しているように見せかけながら、その意識は麗玖紗達に向けられていた。
「わ、わかってないって、本当に?」
三人の中で、もっとも気が強いのが弥夏である。
このままだんまりではダメだろう、と考えたのか、あまり意味の無い確認を麗玖紗に投げつけた。
麗玖紗は弥夏の確認に一つ頷いて、紀恵に話を振った。
「あれ不思議だったんだけど、アンタしゃべってるのは男ってことはわかってるんだよな?」
「何の話?」
「昨日のラーメン屋の話だよ!」
相変わらず紀恵の返事はピントがずれたものだったが、そのおかげで二人が「森飯店」に行ったらしいと、麻美達にも見当がついた。
そして紀恵の返答に注目した。
「ああ、そうね。消去法で何となく」
しかし返ってきた紀恵の返答は、案の定というべきかおかしなものだった。
麗玖紗は思わず「ハァ?」と凄味のある声を返してしまう。
さすがに、この麗玖紗の反応には紀恵もマズいと思ったのか、手を振りながら慌てて説明を続けた。
「女の子じゃ無い、って事は男の人でしょ? だから消去法」
「――それは! ……まぁ、それそうかもしんないけど……で? 会話は?」
「男の人は話が出来るロボット? 多分、そんな感じになってると思うよ」
自分のことなのに、その辺りは深く考えてはいないらしい。
麗玖紗は頭を掻きむしりながらため息をついた。そして今度は麻美へと視線を向ける。
「……実は、昨日注文とか取りに来たのが、久隆って奴だったんだよ」
その麗玖紗の言葉に麻美が色めき立った。
だがそれ以上の言葉が出てこない。麻美にしてみれば、その言葉を受け入れても無視しても、咄嗟には反応できないのだから。
「ただ、確かにアンタの言うとおりだ。久隆って奴はおかしくなるぐらいのイケメンだったよ。それは認める。ただ西山がそれ以上におかしいんだろうなこれは」
麻美を気の毒に思ったのだろう。
益体の無い言葉を費やすことで、何とか麗玖紗は折り合いを付けようとしていた。
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