第45話 麗玖紗の要求
「それじゃ……あ、安城さんも好きなったの?」
麗玖紗の言葉に比奈子がそう尋ねた。
今までの流れ、あるいは「聞かされていた話」を総合すれば自然とそういう疑問が出てくるだろう。
麗玖紗もそれを認めるように深く頷いた。
「顔だけでいうなら、そういう可能性もあっただろうな。だけど俺は幼児体験って奴が少しだけ特殊でな。そんなに素直に出来てない」
「特殊って……」
と、思わず弥夏が繰り返すが、その声が途中で止まった。
麗玖紗は見た目からしても特殊であることは言うまでもないことだからだ。
それに麗玖紗が放つ圧は確実に普通では無い。
しかしその圧がいきなり迷った。
「……あとなぁ……そこの西山がさらにおかしいんだよ。アイツに案内して貰ってラーメン食べに行ったわけで、それ以上には考えてなかったんだけどよ……西山がさっき自分で言ったみたいに久隆って奴を扱うから……簡単に言うと、冷めた」
「冷めた!?」
今度は麻美が麗玖紗の言葉を繰り返した。
現在、のぼせ上がっている最中の麻美にしてみれば、アイデンティティーを守るためにも「冷めた」などという現象は認めるわけにはいかないのだろう。
一方で無茶苦茶言われている紀恵は一人のほほんと立ったままだ。
自分はモブである、というつもりなのである。
だがそれはすでに手遅れであることは、弥夏と比奈子の視線からも明らかなのだが。
次いで二人の視線は、その後ろでなんとも言えない表情を浮かべている亮平に向けられてしまった。
憐れんでいるのだろう。
そんな風に視線が交錯する中、初めてと言って良いだろう。
麗玖紗が、麻美の視線に押されていた。
「冷めた、はあんまり良い言葉じゃ無かったよ。だけどアイツがおかしすぎて……」
先ほどからずっと、麗玖紗は言い訳を繰り返しているような状態であった。
それが麗玖紗の圧を減じさせているのだろう。
麗玖紗にそこまでの変化をもたらした紀恵の存在力が改めて上昇するわけだが、それがこの集まりの目的では無い。
「とにかく!」
それを思い出したのだろう。
麗玖紗が声を上げて、その場を仕切り直した。
「アンタのこだわりももっともだ。確かに久隆って奴はイケメンだし、アンタが夢中になるのも納得出来る」
それは麻美が欲しかった言葉ではあるのだろう。
一瞬、麻美は喜色を浮かべるが、その言葉の主が麗玖紗であるので何とも難しい状態だ。
そして麗玖紗はさらに難しい注文を麻美に突きつける。
「――だからアンタ。遠藤。アンタはさっさと久隆に告白しな」
そう言われた瞬間、麻美の眦が決する。
白い額も朱に染まった。
だが麗玖紗は勢いを取り戻して重ねて麻美に告げる。
「もう、アンタにはそれしか無いぞ」
と。
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