第33話 理由を探せば

 それにしても二人が横並びに座る光景は、なかなか見応えがあった。妙な緊張感がある。


 かたや腰まで伸びるロングヘアの持ち主。かたや放埒な髪型。

 並んで座っているだけで、周囲を圧倒していた。


 それに加えて、この二人は友達同士でも無いし、話している内容が内容だから、それも当然といえば当然だ。


 こんな光景を亮平が見ていたら、


「ええで! それで二人だけにピント合ってる感じの演出して、周囲の風景はパステルでざっとなぞったようなイメージにするか! 世界にはこの二人だけ、みたいな感じやな。しかし、ここから先の展開は……やっぱり別離わかれ……いや、ここが転換点になるのも……」


 というように妄想の中で二人は弄ばれることだろう。

 何しろ、そんなベタな演出は無くとも、この二人は確かに周囲の雰囲気からは浮き上がっているのだから。


 そんな雰囲気を形成した、梢を先回りした麗玖紗の説明とは――


 まず麻美と梢の間でトラブルがあった。その理由とはずばり梢によるイケメンの否定。

 最初は梢もイケメンを肯定していたが、何かのタイミングで否定派になったのだろう。


 麻美にしてみれば、それは梢の裏切りだ。この時はすでに麻美自身が強烈なイケメン信者になっていたのだろう。当然、二人は喧嘩状態になる。


 しかし梢としては、何とか麻美にもイケメン否定派になって貰いたい。

 そういったやり取りを繰り返しているので、ますます関係はこじれてしまった。


 そこで梢は、麻美に自分を客観視して貰うために紀恵を差し出すことにした。

 

 紀恵がイケメンを見てしまえば、必ず夢中になる。そしてそんな紀恵には彼氏がいる。より見苦しくなるだろう。

 そんな紀恵を見れば、麻美も気付くに違いない。


 イケメンに夢中になっていることのみすぼらしさを。


 だが、この計画は失敗した。

 原因は紀恵の特殊性によって。


「――遠藤ってのは。イケメンについて語り合いたい欲求もあったんだろ? 最初はアンタとそんな事をやってたんだ。でも、それが出来なくなった。あの二人の取り巻きはアンタと繋がっているんだろうな。遠藤とか周辺の情報も、そこから流れたんだろうさ。だから取り巻きがイケメン賛美に付き合ってはくれなかったことは簡単に想像できる」


 さらに麗玖紗は推測を進める。

 まるで容赦しない。


「イケメンをさかなにして、キャーキャー言い合えるような状態にしておけば、抜け駆けできないからな。本能でそういうことを自然にやってしまうんだろうな。遠藤ってのは女だ」


 季節限定のハンバーガーにかぶりつきながら、麗玖紗は断言する。

 しかしその横顔に浮かぶ感情には断罪という雰囲気は無かった。


 やはり垣間見える感情は自嘲の翳りがある。


「アンタはそこまで言う覚悟だったんだろう? だから私も少しだけ種明かしだ。私の母親がそんな女だったのさ」


 そして淡々と告白した。

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