第52話 情報収集

「ああ、それなら……成功の確率はあがるものなのかも。二人が付き合い始めたクリスマスイブの時って、どういう感じだった?」


 麻美をフォローするように、弥夏が先を続け、二人に質問する。


「えっと、盛本くんと付き合うことになるだろう、ってどれぐらい確率で思ってったってことだよね?」

「そういう風に言葉にされると、何だかなぁ、って思うけど、まぁそういうことだね」


 先ほどの説明から、告白らしきものをしたのは紀恵らしいと判明している。

 だからこそ紀恵は誤魔化しきれないと思ったのか。それとも紀恵の心境としては、実際に告白するような心持ちであったのか。


 紀恵は、うんうんとひとしきり唸ったあと。


「……多分、七十パーセントぐらい」

「え?」


 意外そうな声を上げたのは亮平だった。


「俺はかなりあからさまだったと自覚してるんやけど」

「それはそうだけど……それでも不安にはなるよ」


 これは間違いなくイチャイチャであろう。

 麻美達の瞳がなだらか~になっていくのに対して、麗玖紗だけは一人不機嫌そうな顔を隠さなかった。


 元々、髪が庇になっているような状態なので、それでもわかるほど表情が歪んでいたことになる。舌打ちの音が聞こえなかったことが不思議に思えるほどだ。


「ど、どうしたの?」


 さすがに比奈子が声をかけると、麗玖紗は圧を復活させながらこう返した。


こいつら紀恵と亮平が“普通”みたいなことされると腹が立つ」

「そんな無茶な……」


 と、思わず比奈子はツッコんだが、とにかくこのままではマズいと察したらしい。

 麗玖紗の怒りの波動で場が改まったことも手伝い、話を元に戻す。


「えっと、きっかけは学祭なんだから九月末辺り。で、次はクリスマスイブなんだから、三ヶ月ぐらい準備期間があるってことになるのか」


 その比奈子の解説に全員が頷いたが、準備と言われても何をすれば良いのか。

 そこがまず具体的にはならない。


 紀恵と亮平を参考にし続ける――幸いこの方面では「普通」ではあるらしいので――なら、目標としては、まず一緒に出かける、ぐらいになるだろう。


 となると、久隆が何に興味があるのか?

 そういった外堀を埋めるための情報が必要なる。


 そこまで話が進むにつれ、自然と皆の視線は麻美を捉えることになった。

 というか、他に選択肢は無い。


 あれだけ麻美が熱を上げている相手なのである。

 知らない方がどうかしている、とまで言い切っても良いかもしれないのだが――


「久隆くんって、そういう話が全然聞こえてこないの。学校も違うし……」

「なるほどなぁ」


 と、麗玖紗が同意を示したのは、どういう心理状態であったのか。

 疑問を持つことを信条としている麗玖紗なら、この段階で不審さを覚えていたに違いない。


 だが、この場には麗玖紗と同じような信条の持ち主は他におらず、その代わりにいたのは――


「……やっぱり違う学校のクリュウか。それって泣きぼくろがあるだろ?」


 話し合いの外で、恐らくは様子を窺っていた男子生徒クラスメイトだった。

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