第15話 “めん”違い
「そうよね! やっぱりそう思うわよね! みーなもヒナも……まず知ろうとしてくれないし!」
幸か不幸か、麻美の反応は紀恵の望んだものだった。
紀恵の目尻がやに下がる。今にも溶けそうだ。
それほどに麻美の全開の笑顔は魅力的ではある。
「あ、これじゃわかんないわよね。みーなは秋瀬さんで……」
しかし麻美は素早く理性を回復させたらしい。
仲間内のあだ名だけで説明しても通じるはずがないと、すぐに気付いたのだから。
「だ、大丈夫。一緒にお昼食べてるし、同じクラスだから。わかるよ」
一方で、紀恵もシュンとなる。
熱に浮かされたような麻美の表情が引っ込んでしまったからだ。やはりどう足掻いても変態である。
「でも、爽やかか。確かにそれはそうかも!」
だが麻美の熱は冷め切ってはいないらしい。
紀恵のレポートを熱っぽく評価する。
「そ、そうかな?」
紀恵も、そんあ麻美の言葉はまんざらではない。
頭を掻きながら応じる。
「うん、でもそれだけじゃないのよね……」
「あ、それはそうだと思う。爽やかだけじゃなくて、なにかエグ味があって……」
あの時「森飯店」で亮平と語り合ったグルメレポートを思い出しながら、紀恵は何とか麻美についていこうとした。
麻美も笑顔で応じる。だがこの時、笑顔の質が変わっていた
「え、エグ味? そ、それはちょっと言い方が違うんじゃない?」
その変化を敏感に察した紀恵が慌てて修正を試みる。
「あ、あ、ごめんね。言い方が難しくて。でもそれで魅力がなくなったっていう話じゃないの」
「それならわかるわ。もしかして目元のホクロ?」
そう言いながら、麻美は自分の左の目元を指先で示して見せた。
その場所にあるホクロのことを言っていることは明白なのだが……
「ホクロ? どうして? ラーメンにホクロ?」
「ラーメン?」
今更説明するまでのことではないが、紀恵と麻美の会話はものの見事にすれ違っている。
だが、この場合理不尽なのは紀恵か? はたまた麻美か?
「……信じられない。どうしてラーメンの話になるの?」
「え? で、でも……」
「あなたもそうなのね」
麻美は怒っていた。間違えようのない程に。
誤解の余地なく。
だが、何故怒っているのかが紀恵にはさっぱりわからない。
そして予鈴――周囲の人の少なさから、もしかしたら本鈴かも知れないが――が鳴り響く中、麻美はわがままに踵を返して校舎の中に消えてしまった。
一方、取り残された紀恵は、麻美の怒った顔をみることができたとまんざらではないとほくそ笑んでいた。
処置無しである。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます