第9話 梢の頼み事
佐々木梢は制服の着こなしからもその性格が窺えるほどだ。
とにかく真面目で、だからこそと言うべきか融通が利かないように見える。
リボンタイの左右のバランスまで揃えているような几帳面さを感じるのは、メタルフレームのメガネのせいもあるだろう。
痩せているせいか、背も実際よりは高いように感じられた。
そういった印象がある梢が、ニンマリと笑うのである。
亮平が思わず、たじろいでしまったとしても仕方ないだろう。
「いきなりでごめんなさい。そうね……私の名前は知らないか。私は佐々木梢っていうの。でも、私のことは知ってるわよね?」
そして、ニンマリという笑いから受ける印象のままに、梢は亮平に問いかける。
それはどこか尋問のようにも思えた。
「あ、ああ、そうだな。うん、知ってるな」
しどろもどろになりながら、亮平は
梢はさらに踏み込んでこう確認してきくる。
「それで西山さんと付き合ってるってことでいい?」
「うん、つきあってるな」
それは隠すつもりもない事実であったので亮平はあっさりと、そしてきっぱりと答えた。そのせいか梢の勢いが少し和らいだように見える。
だが、続けての確認はさらに厳しいものだった。
「それで私のこと、っていうか、私と麻美がケンカしてるんじゃないかって心配してくれたみたいね」
それは言葉の意味だけを捉えるなら、礼を言っているように聞こえる。だがそれは「おせっかいだよね?」というメッセージが伝わってくる口調だった。
亮平はそれを間違えることなく受け取った。
「う、うん。確かにそれは悪かったよ。西山さんとの話でちょっと言ってしまった」
だからこそ亮平が素直に謝ると、今度こそ梢の雰囲気が和らぐ。
「いいよ。盛本くんは別に言って回ったわけでもないし。西山さんだって悪意があったわけでは無いみたいだからね。言いふらしては無いわけだし」
実際はよりややこしい怨念じみた執着があったわけだが、もちろん亮平はそれを説明するわけには行かない。だからこそ言いふらしたりはしないわけで、それだけは確かなことだ。
「でも、少しでも余計なこと言ったなぁ、と思ってくれるなら――ちょっと頼み事聞いてくれない?」
「頼み事?」
「うん、ちょっとお金はかかるんだけどね。その使い道を決めさせて貰えないかと思って」
何だか、複雑なことを言い出した梢。
戸惑う亮平は、思わず眉を寄せた。
「それはどういう?」
「ラーメンを食べに行って貰いたいのよね。西山さんと。デートとは言えないだろうけど、一緒にご飯食べに行くことあるでしょ?」
「それはそうだけど……そんな事で良いのか?」
亮平が首を傾げると、梢が自然な笑みを浮かべた。
「実際、盛本くん達がやったことってそれぐらいのことでしょ? 別に被害があったわけでは無いし。私と縁が出来たってことで、お願い聞いてくれたら助かるわ」
そう言われると、確かに亮平も「ラーメンを食べに行く」ぐらいのことが適当な気がする。いや、そもそもこれが罰になっているのかどうか。
「……新しい店の偵察に行って欲しい、みたいなことか?」
梢の真意が掴めない亮平は、思わずそう確認した。
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