第66話 ダブスタに憧れて
呂貴也の笑い声は朗々と店内に響き渡る。
元々、声も良い呂貴也の笑い声であるから、それによって顔をしかめる者は皆無だった。
それに何より、その呂貴也の笑い声は本当に愉快そうだったのである。
ただ紀恵だけは、
「え? いきなり壊れた?」
と、自分は最初から壊れているのに、改めて呂貴也が壊れていると指摘するような有様だ。
さらに、
「ちょっと落ち着きなさいよ。迷惑になるでしょ」
と、常識人らしく振る舞えるから始末が悪い。
ただ紀恵の言ってることは真っ当であったので、呂貴也は何とか笑いを抑えた。
そして機嫌良く紀恵に確認する。
「……い、いやごめん。ちょっと堪えてきれなくなって。そうか! 俺の顔は特徴が無いか」
「ボリュームを落とせって言ってるのよ。……ああ、目元にほくろがあるのね。O次郎には似合わないと思うけど、仕方がないわ。あなたはO次郎じゃ無いんだから」
相変わらずO次郎上位を揺るがせない紀恵の物言いに、呂貴也の顔は緩みっぱなしだ。
そして改めてV田に紀恵の特性を確認する。
先ほどまでは呆然とV田の言い訳を聞き流していた呂貴也であったが、今度はしっかりと理解するように努めたようだ。
「谷がVで、俺がOか! これは面白いな!」
「ロキがOになったのは理由が全然違うだろ」
結果、このような甚だ不毛な言い争いに突入してしまったわけだが、不毛な争いになるのも気の知れた友達だからこそ、という解釈も出来る。
一時、下心ありで旧交が冷えそうになった事が過去のものとなっていることは喜ぶべき事だろう。
そして紀恵の実態が理解出来ると、次には亮平の存在が矛盾に思えてくるのは当然の流れだった。
だがそれを紀恵があっという間に処理してしまう。
「またこれ? だから盛本くんは私の彼氏なんだって。彼を特別扱いにして何が悪いっていうの?」
そう返された呂貴也は再び驚きのあまり止まってしまった。
そして成り行きに耳をそばだてていた客達からも、様々な感情が込められたため息が漏れ出していた。
「……と言うようなことをうちのクラスで西山さんが言ってな。ダブスタの何が悪いって」
V田がそう言い添えたのは、V田はV田で紀恵のダブスタ振りに感心するところがあるからなのだろう。どこか自慢気な響きすらあった。
呂貴也もそれに頷く。
「確かにな。確かに特別扱いは悪いことじゃない。これは面白い。なぁ、もっとゆっくり話せないか? 盛本くんも一緒に」
そして、こんなことを言い出したのである。
さすがにそこまで踏み込みたくは無かった二人であったのだが――
「――告白云々の話が全然進んでないみたいだけど、それは良いのか?」
と、呂貴也に言われると逆らいようが無い事に気付いた二人。
いつの間にか主導権が呂貴也に握られていたのだ。
どうやら呂貴也もまた只者では無いらしい。
その美貌を抜きにしても。
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