第80話 見果てぬ百合
こんな風に、やたらに考え方の合う二人ではあったが、どうしても一致しない部分もあった。
言うまでもない事だが百合性の違いである。
二人の話は餃子をつつきながら自然とその方面の話に移行していった。
ちなみに今日の餃子は大成功である。
「俺としては安城さんと佐々木さんに可能性があると思ってる。別に吸血鬼じゃなくても安城さんの存在感は圧倒的だし」
「それはわかるけどさぁ」
紀恵が、渋々同意した。
亮平のように二人だけでは無いが、梢も麗玖紗も一緒にいるキャッキャウフフ空間を妄想していたのは、紀恵も確実なところだからだ。
だが紀恵は尚も抵抗した。
「でもさ。あえて盛本くんの好みに合わせて考えるなら、安城さんの役割は、それじゃないと思うのよね」
「どういうことや?」
「だから、今回安城さんは遠藤さんと佐々木さんの百合を回復したわけじゃない? ――ただしO次郎は含まないものとする」
「まぁ、それは確かに」
「だったら、盛本くんの好みで言えば、ここは安城さんが身を引く流れになるんじゃ無いの? 役目は終わった~みたいな感じで。私としてはイヤなんだけど」
そんな紀恵の提案は、確かに亮平の心を揺さぶったようだ。
いや、もしかしたら、そこまでは妄想済みであったのかも知れない。
亮平はしばらく沈黙していたが――
「西山さん。それでは百合の甲斐が無くはあらへんか?」
「百合の……“かい”? “かい”ってどういうこと?」
突然放たれた、紀恵をして混乱に導いてしまった亮平の妄言。
当たり前にわかるはずが無い。
亮平は丁寧に言わんとしている事を紀恵に伝えた。「甲斐」の字と共に。
「つまり……さっきの考え方じゃ、少年漫画みたいだと。そういうこと?」
紀恵は亮平の妄言を懸命に理解しようとした結果、このような結論に辿り着いた。
そしてそれは、亮平が自分でもよくわかっていなかった部分を導くものであったらしい。
「それやな。さすがは西山さん。そうなんだよ、そういうラストはまんま少年漫画なんだよ」
「そうかなぁ? それにラストじゃ無いから。というかラストにする必要ないじゃない」
「いやぁ、そこは俺の好みの問題だから」
と言われてしまうと、どうしようもなくなる紀恵。
それでも、抵抗するのならば――
「じゃあ、どうするの? 少年漫画がイヤだとして、それで安城さんと佐々木さんが、って事になるわけ?」
という部分へのダメ出しになるだろう。
亮平もそれを認めながら、答えはさらに難しくなった。
「そこは確かにはっきりしない。安城さんと佐々木さんは違うのかも知れない。ただ俺は信じてるんや。百合の可能性は、この考え方の先にあるって。少年漫画でも無い、百合独自の貴ぶべき未来があるって」
「そ、それは……」
紀恵は圧倒されていた。
亮平の言葉があまりにも抽象的すぎて。
ただ一つ、紀恵にも確信出来ることがあった。
それは――
「……盛本くん。あなたは百合に厳しすぎるのよ」
と言うことだ。
そして今日も、二人はリンゴを剥き合って妄想にケリを付けるのである。
Fin
紀恵の彼は百合に厳しい 司弐紘 @gnoinori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます