第38話 日本語が及ばない
やはりと言うべきか、今回も坂道に行列は出来上がっていた。
それも女性ばかりの行列。行列の先にスイーツ店があるのならば、まだ納得しやすかったが、行き着く先はラーメン店なのである。
「……なぁ。盛本の奴は何か言わなかったのか?」
「何が?」
だが紀恵にとっては理想的な行列なのだ。
当然、麗玖紗の話など聞いているはずが無かった。
麗玖紗もそんな紀恵の様子をみて、ある程度は諦めたらしい。
行列に並びながら、それでもめげずに紀恵に話しかける。
「アンタさぁ。盛本のこと本当に好きなのか? 前はダブスタ扱いしてるんだって言ってたけど、どうもその辺りがな」
随分、思い切った質問と言うべきだろう。
実はこの時、麗玖紗は一つの疑問を抱いていた。
紀恵もまた、問題のイケメンが気になっているのでは無いか? と。
何しろ亮平の同行を拒んだのであるから、その可能性は否定できない。
そして、そんな質問に対して紀恵は顎に手を当てながらクビを捻った。
亮平の名前が出たことで、すぐさま妄想から戻ってきたらしい。その辺りは確かに特別扱いしているようだが――
「う~ん、実はね。普通に言う『好き』って言うのとは違うんだろうな、とは思ってる」
一瞬、麗玖紗の心が揺らいだ。
疑問に感じたことが的中したという高揚感。そして紀恵にはどこか浮世離れしていて欲しかったという残念な気持ち。
それらが麗玖紗を覆おうとしていたのだが、
「盛本くんはね。とにかく私にとって貴重なのよね。もうこれから先、盛本くんみたいな人と会うことはないだろうって思えるぐらい。本当に凄い幸運。だから私は盛本くんを手放したくないのよ。これって“好き”になるのかな?」
紀恵から返ってきた答えは、麗玖紗の予想を超えていた。
完全に意表を突く形で。想定すらしていなかった次元で。
「そ、それは……」
麗玖紗は圧倒されていた。
ほとんど呻き声のような声が、かろうじて言葉を継ぐ。
「す、好き……って言うのとは、確かに違う気もするけど。独占欲だけが突き抜けてる気もする」
「でしょ? ちょっと私に都合がよすぎるのよね。私はそれを利用してるだけって感じがする」
「そ、そもそも、どういうきっかけで付き合ったんだ?」
流れのままに麗玖紗が続けてそう尋ねると、紀恵の頬が赤くなった。
「い、いや、それは言いたくないな~。自分で思い出してみても『そんな事で?』ってなるし。それに、そういうきっかけは一つじゃ無いから」
何だか普通の女の子の様な反応を見せる紀恵。
だが、話している内容はやはり普通とは違うらしい。
ただ、確かに「好きなった瞬間」というものは無いらしい、と麗玖紗はいつものクセで、これまでの証言との整合性を見出し納得する。
「ま、そんな事よりさ。今はキャ……ラーメンを楽しもうよ」
「ああ……そうだな」
こうして行列に並んでいるときの二人は痛み分けと相成ったのであった。
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