第50話 同時だと思われているもの

「ちょっと待って。じゃあ、告白はしてないの?」


 麻美が慌てて二人に尋ねる。

 そしてあまりにも言葉足らずと思い直したのか、


「……つまり“好きです”みたいな事を相手に言うって事なんだけど」


 と、補足する。

 紀恵と亮平は顔を見合わせて、同時に首を捻った。


「……言われてみれば……」

「そういうのは無かったね」


 と、紀恵と亮平の見解が一致したのは喜ばしい事だが、当然それでは収まらない者もいる。

 例えば麗玖紗だ。


「それじゃ俺の話が最初からおかしくなるだろ。ちゃんと手続きを踏めよ」

「手続きって……」


 そう言いながら、亮平が苦笑を浮かべる。

 麗玖紗は紀恵ののろけ具合を体験しているので、亮平の態度がしゃくに障ったのだろう。


 そして、それと同時に、


「そうよ。それは何か違うと思うわ」


 と、麻美からも非難される二人。

 そんな協力体制の二人を見て、紀恵が昂ぶっているわけだが、ここはスルーさせて貰おう。


 何しろ、ここで弥夏が動いたからだ。


「まぁまぁ。確かに参考にはならないかもだけどさ。順番に聞いてみようよ。その『付き合うことにしよう』って言い出したのは西山――ノリちゃんで良い?」


 そう言われて、一瞬で熱が冷める紀恵。

 何しろこのままでは、自認するモブの位置が揺るいでしまいそうだからだ。


 だがここで頑強に否定するのもモブらしくないと気付いてしまった紀恵は「あだ名呼び」を受け入れることにする。


「――うん。それでいいよ。で、『付き合うことにしよう』って私が言ったんだけど、それで?」


 頭の冷えた紀恵が、淡々と弥夏に確認する。

 だが今度は弥夏の熱が冷めなかった。そのまま前に乗り出す勢いで質問を続けた。


「そういうやり取りがあったのは何時?」

「あ~っと、それはね。……去年の、く、クリスマスイブ」


 どうやら紀恵の中にも羞恥心が棲息していたらしい。

 あまりにも定番のシチュエーションで、そういうイベントが行われたことを恥ずかしく思う気持ちが。


 それを聞いた反応は、四人ともそれぞれ違ったわけだが、いち早く質問を続けたのは比奈子だった。


「それって、デートしてたってことだよね? じゃあ、その時が初めて?」

「二人で出かけるのが初めてなのかっていうことなら、それは違うんだけど」


 そんな紀恵の回答は、四人全員の意表を――いや、麗玖紗だけは違った。

 麗玖紗は以前、紀恵から“きっかけ”については聞き出しているのだ。


「つまり……アンタが盛本をダブスタ状態にしたのは何時なんだ? っていう話になるのか、これ?」


 そんな麗玖紗の確認に三人が頷いた。

 確かに理論だけを言うなら、麗玖紗の確認順序が最適だろう。


 だから耐えろ亮平。

 完全に生け贄状態だが、ここで戦線離脱は許されないぞ。

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