第76話 話がすれ違う

 麗玖紗のその考え方には確かに説得力があった。

 ただし後から考えてみれば、ということになる。ちなみに紀恵は何も考えてはいない。


「……それなら、もっと上手いやり方があった気がする。放課後にまとめてやるから、俺達に伝えきれなかったんだろ?」


 確かに呂貴也を相手にするなら、亮平も紀恵が最適だったと今ならわかる。

 だがそれなら、一斉に作戦会議じみたものをしなければ良かったこともまた、確実なのだ。


「それはすまん」


 そんな亮平の非難に対して、麗玖紗は素直に謝って見せた。


「ただ、これだけは言わせてくれ。非常に面倒だった。だからアレで一気に片付くと思い込んでたんだな。で、グダグダになった。アンタたちを久隆のところに放り込むだけで精一杯だったよ」


 あまりに明け透けな麗玖紗の物言いに、亮平の勢いが削がれる。


「だから佐々木に言われていたことも、投げやりになってたんだけどな。そこまで付き合ってられるかって」

「佐々木さんに? 何を?」


 即座に紀恵が食いついてきた。

 それは麗玖紗の逃げ場を削る問いかけだったのだろう。ここまで直球で攻め寄られると、麗玖紗も誤魔化しようが無い。


 つまり麗玖紗は出来るなら“あやふや”にしておきたいことがあったのだ。

 だが、二人にはキチンと礼を言っておきたい。


 その二つの心情が未だ麗玖紗の中でせめぎ合っていたのだが――


「――実は久隆が女嫌い、というか完全に下に見ているんじゃないかって、佐々木は疑ってたんだよ」


 それを告げられた瞬間、紀恵と亮平は再びシンクロしたかのように、生唾を飲み込んだような表情になった。

 それを見て、麗玖紗は再び苦笑を浮かべる。


「……そんな風に疑っていたから、佐々木は遠藤にずっと考え直すように言ってたんだと。それが二人が喧嘩してた理由」

「へぇ~」

「そうだったのか」


 と、麗玖紗の種明かしに、どこか気もそぞろな状態で返事をする二人。

 それでも、亮平が先を続けた。


「……でも今は、仲直りしてるよな」

「ああ~……そこだ。どうしてそうなったのか俺にはよくわからんが、それが佐々木の頼みだったんだよ。仲直り、とまでは言ってなかったけど、そのためのきっかけを作ってくれって」


 そこで亮平は頷いて見せた。


「なるほど。それなら遠藤さんに告白させた方が早い。上手く行ったら行ったで……佐々木さんはそうならないと考えてたのか」

「そう。俺も佐々木の言葉を信じてたんだが、結果として遠藤は久隆と付き合うことも無く、それなのにご機嫌で、その上、久隆の取りなしで佐々木と仲直りまでしている」


 ボリボリと頭を掻きそうになった麗玖紗がその手を止めた。

 何しろ食事中だ。


「上手く行きすぎてなぁ……久隆も特に女を下に見ている感じじゃないし。その辺りどうなんだ?」

「どうって?」

「だから実際、二人は久隆と会ってるわけだろ?」


 確かにその点では二人にアドバンテージがあることは確かだ。

 亮平はそんな麗玖紗の視線から逃れるようにしながら、


「――いや、会ったと言っても、こちらのお願いを伝えただけだしなぁ。むしろ谷の方が詳しいのかも。確かに西山さんのおかげも大きいけど」

「そうだね。O次郎は……何というか簡単だった」


 その紀恵の言葉が、麗玖紗にとどめを刺した。

 いや、迷いを払ったのだろう。


「――そうだな。実際上手く行ってるんだから、無理に悩むことも無いか。面倒だし」

「そうだよ。中間の方が面倒だってば」

「俺はさして面倒じゃない」


 と、再びゴールデンウィーク明けの次なるイベントに立ち向かうことになった三人。

 お弁当をつつきながら、それぞれの得意科目などを披露したわけであるが――


 ――当然、紀恵と亮平には披露できない秘密があることは言うまでもない。

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