三件目 何者
「え、っちょっと待って下さい。あの〜、お岩さんはえっと〜...」
‘’復讐‘’という言葉を聞き、小中高と真面目キャラを突き通して演じてきたマイズミが焦るように再び依頼内容及び内容の趣旨について、顔色を窺うようにしながら尋ねる。
が、
「何度聞かれても私の意見は何も変わっていません。‘’復讐‘’です。」
そう答えるのであった。
「あちゃぁ〜...俺ら男じゃこの女の気持ちはあまり理解理解できる余地は無いかもしれねーけど...どうしよっか☆」
「何開き直ったような口ぶりで余裕ぶっこいてるんすか恐神先輩...
それなら誰か女性の方を連れてこれば...」
今までこの恐神探偵事務所では、【ペット探し】【恋愛相談】【代役】【部屋の清掃】【人生相談】【人探し】【調査依頼】などを承っていたが、このような‘’復讐‘’に関する依頼は、今まで承ったことは一度もない。なのに何故この人は
『全然余裕だし〜、というか焦る必要ナッシングトゥーマッチ』
みたいなへらついた顔して呑気に珈琲を味わっているんだ。こんなときあの人がいたら――
「お呼びですか??」
「...?すみません、この女性...?少女?は何方様ですか?」
何処から現れたのかわからない位唐突に恐神の背後から現れたその少女(仮)は、原宿あたりに居そうな明るく爽やかな金髪ショートと、それに反転するようなグレーの落ち着いた瞳、そして白いパーカーを着込んでいる。
「おお悠寿じゃねぇか。久しぶりだな...
つか背中にやけに違和感あると思ったら、お前又人の背中から出てきただろ...」
「えへへ...、恐神の背中はマジで最高だよ。あ、褒め言葉ね。」
「あれ、恐神先輩ってそんな能力みたいなのあったんすね...
てっきり雑用系かと...」
「おい誰が雑用だよ
悠寿、こいつ食っといていいぞ」
「アイアイサー!!」
先程の空気がまるで嘘だったかのように入れ替わり、お岩を除く男二人と少女と呼ばれた性別不詳のソレは、ソレが久しぶりに二人の前に顔を出したことによる久しぶりの再会を祝福するように駄弁り始めてしまった。
「え?せ、背中...?」
「あれ、お客さん??何か飲んでく?」
「あや、えっと...その前に背中から出てきたことについて説明が...」
「あれ、知らないの?」
少女(仮)がきょとんとした表情を浮かべ、数秒硬直した後恐神とマイズミの顔をじろっと眺めるように見つめると、二人して「俺は何も知らない/まだ言ってないっす‥すみません...」とつぶやきながら、【代わりに言って♡】と目で訴えるように少女(仮)を見つめた。
「うーん、何となく状況は掴めた。...ていうか唐突にボクが現れて少し怖かったよね、ごめんね。とりあえずこいつとボクの説明だけ先にしておくね。」
甘く優しいとろけるような声色で、相手を安心させるように話しかけると
「...わかりました。」
と、少しだけ安堵に満ちた声で返答された。
「...先ず最初に、ボクの名前は‘’悠寿(ユズ)‘’。
そして、さっきボクが背中から出てきた如何にも顔からして怖いコイツは、‘’恐神(オソガミ)‘’ってゆーの。あとこっちの恐神とは正反対の男は、‘’マイズミ‘’。」
「は、はぁ...?
え、あと...あの...‥先程の...オソガミさん...?の背中から出てきた件については...」
【恐神の背中から少女が出てきた】という発言に未だに動揺が隠せず、また嗚咽気味になりかけているお岩の肩に優しく触れるようにして、少女(仮)は淡い退紅に染まる口をゆっくり開きこう呟いた。
‘’能力‘’
「ただの‘’腐ったリンゴ‘’だよ。例えるなら、映画と同じただのマジックみたいなものさ。」
そう呟いたときの悠寿の表情は、妙に毒々しい果実のようだった。
*
「さてと、話を再開しましょうか」
先程の悠寿の発言に少々場の雰囲気が凍りかけていたのはさておいて、マイズミが場を切り替える合図を送る。
「さて、では貴方のお悩みについて、聞かせていただいても宜しいでしょうか?お岩さん」
「えぇ...、はい。」
‘’あなたのお悩み、俺達に成仏させて下さい。‘’
亡霊一体、性別不詳の異醜態一匹、そして人間(仮)二人の何ともシュールな談論が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます