四十八件目 とんちき
*少し性描写あり
吉原遊郭に到着すると、辺りには初々しい子供から大人びた女性など色々な人が歩いていた。そして、場所によっては一線を越えたような声も容赦なく耳に侵入する。
「?…月の兎、普段よりも元気が無いようだが。先程の者達に何かやられたのか?」
先程からすれ違う女性に対し甘い声で挨拶を送り、又は恋とは別の意味で胸が痛くなる様な言葉ばかり投げかける楼主出会ったが、特に怯える事も虚しい表情をするわけでもない私の行動に多少の違和感を覚えたのか、楼主は私の顔を覗き込んでくる。
「先程の方は甘味処の場所を教えてくれた、ただの気前のいい方々です。会話をしていくうちに、互いに共通点を見つけて仲が深まっただけ。」
先程この男に助けられたときに感じた事だが、自身と同じ髪色と血赤色の瞳、そして妙に女性に対しては甘ったるい行動ばかり繰り返す男には既視感があるのだ。そこで悠寿は、「この男についていけば何か良い情報が入るかもしれない」と思い、大人しくついてきたのだ。
「そうか。だが月の兎、自身はこの遊女屋において大切な商品であるという自覚と品格を常に忘れるなよ。…さて、これから少しの間はまだ時間が残っている。部屋で身体を癒やし、夜の床入りまでには体調を整えておくように。」
「承知しました。」
それだけ言い残すと、楼主は早足で次の野暮用を済ませに去っていった。
「…“月の兎“、ねぇ…。まぁそれなりに悪くはない名前ね。けど赤の他人に付けられた名前よりも、やはりあの人が名付けた“悠寿“って名前が一番かな。」
悠寿は少し重い足取りで布団に仰向けに寝転がる。相変わらずの賑やかさを保つ街並みは、色々な感情が混じり合っていて正直余り気分が良いとは思えなかった。
「…さて、今夜はどんな姿の鬼が会いに来てくれるのか楽しみだ。」
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