五十七件目 余命三日間/一日目
男に急かされて多少のイラつきを覚えながら、森に潜む悪霊退治に向かう悠寿。そして、彼女がサボっていないかどうか見守る為に同伴者として男もついてきた。
「…で、何でこんな村に悪霊が湧いたの?余程大きな問題や事件、または危害を加えられない限りは無いはずなんだけど。…てか、この前私が此処に来た時に、離れた村から逃げてきた悪霊は全員退治したはず…。」
「…内容は知っているが、まだ出会ったばかりの死神に教えるほど私は馬鹿じゃないぞ。さっさと働け。」
「うわぁ…厳しいねぇ〜…。そんな周囲に厳しくしちゃったら、時期に女なんてよってこなくなるよ〜?顔とガタイは良いのにもったいない。」
「煩いぞ死神。」
悠寿の背後をついていく男は、後ろから彼女の頭上に向かって優しめに手刀打ちを食らわそうとするも、彼女はそれを知っていたかのように軽やかに避ける。
「まぁなんかあったらボクが良さげな人紹介してあげるよ〜。…それと短い間だけど、この3日間は相棒みたいな親密な関係なんだからもうちょっと此方寄ってきなよ。私今視界良好じゃないから、近くにいてくれないと困るぅ〜。」
きゅるん、と潤った瞳で男を見つめる。男は時差で顔を赤くさせながら「さっさと歩け、この小悪魔が。」と言いつつ、悠寿の傍で歩き出した。
「いや私死神だし。…あ、ねぇそれともしかして…あんたウブなの?私ウブな人は好きだよ〜。よちよちよち」
「私より小さいくせに生意気な事を言うと噛…」
「…?どうかした?急に止まったら悲しくなるじゃ…、おぉ…思っていたよりも人間みのある悪霊だ。久しぶりに手応えのある子が来てくれた。」
男はやや真剣な顔つきで悪霊を見つめる。対して悪霊の方は、不可解な発言を繰り返しながらけたけたと笑い、此方に向かってくる。
「…いいよ、今日は私が相手してあげよう。痛くならないようにしてあげるから、じーっとしているんだよ?」
「谿コ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺呎ョコ縺�」
悪霊の手が刃物の如く鋭くなり、段々此方に強い因縁を持ち込んで走ってくる。また、周囲の木々に乱雑な切れ跡があることから、この悪霊の仕業だと言うことがよく分かる。
「切れ味も良さそう。…あ、御主人。怖いなら私の背中にでも引っ付いて隠れてても構わないけど。…此奴程度なら一人で倒せるから。」
悪霊は悠寿が男と話している事など気にも止めずに刃物を振り回し、彼女の喉仏を狙い続ける。しかし悠寿は喋りながら悪霊の相手をしているのに、傷一つも負っていない。
「お前の背中に隠れたがる程私は弱くない。さっさと倒せ。…此の光景を長時間視野に入れるのは心苦しいのだ。」
「はいはい…。それじゃあ、…――」
悪霊の手、もとい刃物を使い空中に浮遊すると、其の勢いを使い身体を回転させながらぎらぎらとした光沢を魅せる鎌で悪霊に終止符を打った。
「ふぅ。意外と弱いもんだね。…さて、此の後はどうするの?」
けろっとした表情で男の方に身体を向ける。しかし、神隠しのように男の姿は見えなくなっている。
「お?あれれ、御主人?私今君がいないと困るんだけどなぁ――」
「谿コ縺呎ョコ縺呎ョコ縺吶*縺セ縺ゅ∩繧�′繧後谿コ縺�」
悠寿の背後から化け物の声。
腹部に重みを感じた。憶測だが、小学生と同等の身長の悪霊だろうと解釈した。大地から蘇ったのか、と疑いたくなる程何も気配を感じられなかった。彼女が普段相手にしている悪霊は、大地よりも上のもののみだ。
「―…油断するな、死神。」
「ぐえっ?」
勢いよく頼もしい腕力の持ち主の方へ引き寄せられる。それと同時に悠寿の腹部に強く抱き着いていた悪霊は、男が手を向けた瞬間身体が捻じ曲げられ液状化し影の様な形となると、やがて男の影に吸収されるように消えていった。
「…此処はもう、化け物だらけの廃村の様な場所なのだ。対話可能な村人がいたら直ぐに避難を呼びかけ、此の村から離れさせろ。“彼らが家族に会いたい。“と望めば、…“言いなり“となり、死神としてやるべきことを行え。」
「…ふむ、何だか必死だね…御主人。…何となくだけど、此の村の事情は粗方理解できた。でも、ただの思い込みの部分もあるからさいつか必ず教えてね。」
男は静かにうなずいた。
***
そして其の数時間後の話に遡る。
「…で?何此の状況。あんたいつも此奴等と添い寝してたの?裏切りじゃん。え、何浮気?は?この量と?ダイナミック浮気じゃん。…ダサ。」
悠寿が思わず絶句するような風景が広がっている。
其処には、先程倒したはずの悪霊達が営むような旅館じみた大きなオンボロが建てられていた。
「…安心しろ。此奴等は無害だ。人間や妖怪達に対して危害を加えないという証明書も持っている。大丈夫だ。」
「いやいやいやいやいや、いつからこんな共同生活してたの?もしかして大家族の一派の人でしたか?私こんなの見ちゃったら、明日からの仕事すっぽかして早く帰りたいんだけど。」
悪霊達はあいも変わらずけたけたと楽しそうに笑いながら二人の前を走り回ったり、美味しそうに牛乳瓶を体内に流し込んだりして、すっかりまったりモードに入っている。
「はぁ…之じゃどっちが可笑しいのかわからないよ…。」
悠寿は目の前の状況に頭を抱えた。
「死神、主はこうして霊達と暮らす生活を味わうのは初めて…なのか?」
「いや…昔はそういう生活を送っていた事もあったけど…最近は人間みたいに生活してるし、何なら人間と一緒に生活してるから私の感覚が鈍ってるだけ…だと思う。ははぁ…まじか此の男…。」
先程までのお硬いイメージの強かった男から、只の“天然馬鹿“に昇格した男のシュールな行動に頭を抱える悠寿。すると受付嬢が二人に話しかけた。
「縺雁ョ「讒倥�縺企Κ螻九�蜷代%縺��蟒贋ク九�謇句燕縲∝承縺九i莠檎分逶ョ縺ィ縺ェ繧翫∪縺吶�」
「…?あ、之…鍵?部屋の?えぇと…ありがとう。」
言葉の理解は乏しいものの、ぎこちなくもにこりと笑って鍵を受け取る。それを観察していた男からは、「何だ、口だけで慣れてるじゃないか。」と楽しげに笑っていた。
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