四十一件目 会社員怪異の終焉

雅客の言葉に一度間抜けな面を釜しながら、目を凝らしながら暗闇と同化している人物をじっと見つめてみる。


「…恐神?」


暗闇に向かって問いかけるように声をかける。しかしながら返答は返ってこない。


「ほら雅客!“恐神?“って聞いても特に何も返答来なかったし!きっとまた例の怪異か何かだから、きっと恐神じゃ…―――」


「…――?」


すると、暗闇から“返事“といわんばかりに球体の爆弾のようなものが投下される。



「あぶ、ッ――!!」


咄嗟の出来事でありながら、雅客が華麗に悠寿を抱きかかえ安全なところへ避難する。しかしその物体が投げられたところからは、蠢く黒く淀みきった影廊達が現れてきた。


「お、紳士だねぇ。惚れちゃいそう〜」


ニマニマと笑いながら、自分の事を助けてくれた雅客の頭をよしよしと撫でる悠寿。しかし、向こうにいる人物は容赦なく攻撃を繰り返す。



「わ、危ない危ない。」


雅客は悠寿を抱きかかえたまま華麗に攻撃を避けつつ、対する悠寿の方は周囲にいるしぶとくうじゃうじゃと蠢く影廊達の始末を行う。



「うわァ…悪玉コレステロールからウイルスがわちゃわちゃと…。こんなに沢山いられたら、流石に今の姿じゃ退治しきれなくて困っちゃうよ。」


「おい悠寿、そんな余裕ぶっこいた事言ってると、痛い目見るぞ?少しは危機感ってやつ持たねーと、下手したらこっちが成仏されるぜ。」


次から次へとやってくる攻撃にも、元々それを知っていたかのように綺麗に避け続ける雅客であるが、ふと何か思い至ったように悠寿を地へと下ろす。



「ん?あれぇ、もう終わりなの?雅客ズメリーゴーランドもうちょっと堪能したかったのにな〜」


“この様な状況にも慣れてるので、笑顔で対処できちゃいます!!☆“と、表情で訴えてきそうな顔つきで一切笑みを崩さない悠寿。

だがこの数秒後に、一瞬だけ顔が強張ったのを雅客は見逃さなかった。




「は…?彼奴等も来るだなんて聞いてねーぞ…」


雅客の視線の先には、行方不明となっていた社員二名と幽霊一体が。




「?…お、これはこれは。もしかして今回の事件の終焉を告げるラスボス戦的な方のご登場って感じ?いやァ…こんな沢山来られたら、流石のボクもどきどきして心臓痛くなっちゃ〜う♡♡」


そして悠寿の目の前には、中心体として平凡なサラリーマンの格好をした人間が存在していながらも、ガラクタに飲み込まれたような巨大の化け物が佇んでいた。そして、サラリーマンのような格好をしたマネキン達が其の巨大な化け物を取り囲んでおり、顔面には文字やラクガキのような顔が描かれた紙を貼り付けられている。



「…ふむ、これボク達で倒せるのかな。すっごく不安なんだけど。」


悠寿はじろじろと目の前の化け物を見つめながら、半諦めモードに差し掛かったような声色で呟いた。




だがしかし、雅客はこういうのだ。



「俺達に不可能なんてない。例えどれだけ時間がかかろうと、夜明けまでには終わらせて、菓子パでもしながら映画鑑賞しようぜ。」


「おおう、雅客も意外と随分脳天気な発言するのね。――…でも私達なら大丈夫。そこらへんのまだ数十年とかしか生きてない人間如きに負けて溜まるかっての。」


そういうと、月明かりに照らされて姿を表した二人の影が、うっすらと光に溶け込んでいく。その代わりに二人の姿は、先程とは別人に变化していた。



「どう?私の仕事モードの姿も中々悪くないでしょ?」


黒髪に白が主体となり少し模様がついた羽織に首飾りのついたハイネック、そしてタイトパンツと鎖やベルトなどが全身に装飾され、背中には幾つか悠寿が愛用している戦闘用武器を武装している。



「悠寿らしくて似合ってると思うぜ。…だが、顔が見えないのが残念だな。」


その一方で、雅客は悠寿と正反対の色の服装を見に付けて、目の前にいる探偵事務所の社員に対して、容赦なく戦闘モードに入っていた。

背中から威嚇するのは八つの口が威嚇し、雅客の手の中には鋭く光る剣が三人に狙いを定める。



「――じゃあ、お互い死なないようにね。」


「嗚呼。」


そう言い切ると、二人は同時に目の前にいる相手に飛び掛かった。






             ***





「ふう、なんだ意外と弱いじゃん。期待して損したんだけど?私の大事な仲間を奪っておいてその程度の弱さだったの?もう少し力あるんでしょ?」


戦闘開始後、わずか五分程で周囲のマネキンを薙ぎ倒し、ガラクタにまみれてしまった化け物と戯れるように戦いに望んでいた。

しかし悠寿側の現在の力量は序の口と言っても過言ではないが、今目の前にいる化け物にとっては相当なダメージを受けるほど強力な威力を持ち合わせている。



「ねぇ、サラリーマンさん。貴方がどれだけ辛い思いをしてきて、その地獄を味わったまま、苦痛の人生と共に終焉を迎えたというのは、私も似たような経験したことがあるから百ではないけど、気持ちはそれなりには理解できる。」


化け物は鋭く切れ味の良い書類用紙を、悠寿の急所に向けて何十枚も繰り返し投げ続ける。しかし彼女は空中でも尚、踊り舞うように綺麗に避け続ける。



「繧ェ繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ォ逅�ァ」縺輔l縺溘�繝ォ繧ォ縺薙�荳夜搨gjb蝨ーrklgbvj蟆擾ス鯉ス具スゑス�ヵ繧」繝エ繧ゥv繝ウ縺励♀�悶⊇��シ鯉ス�」


「…あら、人の心配も嫌がるクセに、冥界に生きた人間を道連れにしようとするだなんて冗談も大概にしてよね。」


悠寿の顔色が少し曇る。

しかし、再び瞼を開いた時には、その表情が嘘だったかのように消え去っていた。


「繧ェ繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ッ縺�▽繧ゅが繝槭お縺ォ逅�ァ」縺輔l縺溘�繝ォ繧ォ縺薙�荳夜搨gjb蝨ーrklgbvj蟆擾ス鯉ス具スゑス�ヵ繧」繝エ繧ゥv繝ウ縺励♀�悶⊇��シ鯉ス狗焚�偵�dfkl繧澱繧Mgdkbcvm�幢ス撰ス具スゅ▲�具ス�ス�ス搾ス厄シ鯉ス假スゑス�」



「――…あのね、最後の最期に一つ教えてあげる。私達“死神“はね、命尽きる人間の儚い寿命期間に合わせて、死のお迎えだとかで日々こき使われてる。…でもね、貴方みたいに寿命期間がまだ残っている人間を強制的に死へ誘うなんて下劣な行動はしないのがお約束なの。」


悠寿は化け物を見上げる高さまで浮遊すると、大鎌で化け物を囲むように綺麗に円を描き、その間に化け物の行動を拘束するように嵌め込まれる。



「縺茨ス抵ス�ス費ス�℃繧���奇ス具ス鯉ス阪§縺オ�呻シ暦ス費シ包ス抵ス�ス�ス�ス�ス茨スゑス奇ス�!!!!」


「あ、苦しい?…でもこれぐらいまだ序の口だから。

 ――…さて、ワルイコは八大地獄へ行ってらっしゃ〜〜い♡♡」


にこりと妖艶な笑みを浮かべると、化け物は紅く染まった蟻地獄へ無数の腕に引き下ろされ、這い上がれぬ限りなく下の方へと堕ちていった。



         

                ***





「はァ…しぶとすぎだろ此奴等…何処でそんなゴキブリ並の生命力宿してキやがったんだよア“ァ“!?」


「縺ス抵ス�ス費ス�℃繧���奇ス具ス鯉ス阪§縺オ�呻シ暦ス費シス抵ス�ス�ス�ス茨スゑス奇ス�」



「だーかーら!!何いってんのかわっか“んねえ“からハッキリ喋りやがれ!!つか何で彼奴は俺一人に対して三人倒せだなんて言うんだよ…頭イカれてんだろ…」


一方その頃、雅客はというと三人対一人(こちらが雅客)でお取り込み中である。しかし、お互いそろそろ体力限界に達しそうになった頃…――




「縺茨ス抵ス�ス費ス�℃繧���奇ス具ス鯉ス阪§縺オ�呻シ暦ス費シ包ス抵ス�ス�ス�ス�ス茨スゑス奇ス具ス偵§縺茨ス�§繧�>縺奇スゑス鯉ス具スゑス具ス�スゑス�ス�ス後a縺�♀�ゑス奇ス�ス具ス厄ス鯉ス阪j縺�ス費ス茨スゅ#縺�ス後s�後��翫〓縺�ス�ス茨ス悶§繧�ス九∞縺!!」


悠寿がボスを倒したタイミングとほぼ同時に三人の洗脳が解け、脳を蝕んでいたモノが引き剥がされる感覚と格闘する様に、汚らしく嗄れ切った雄叫びを上げながら次々と意識を手放していく。


「は??何だ此奴等急に一気にバタバタと倒れやがって…ドミノ倒しじゃねえんだからよ…コントみてえに倒れやがって…」


「ふふん、どうだい雅客よ!!

ボクが彼奴を倒したから、洗脳が解けたのサ!!」


普段の金髪の似合うストリート系ファッションの姿に戻った悠寿が雅客の傍に現れる。声色は元気そうだが、それなりに負傷したのか顔や腕にやや傷ができている。



「…まァ、その…ありがとよ。――…でもお前その傷…」


雅客は悠寿の傷跡を確認しようと腕を伸ばす。が、それを軽やかにかわしながら、気絶している三人に声をかけ始めた。



「お〜い、早く起きろ〜!!ボクだってもう体力なくてヘトヘトなんだから自分で歩いてくれないと困るんだから!!ねえ!!」


「…お前…自分の怪我のこともあるんだからよ、少しは自分の体のこと労れねぇほど馬鹿なのか…?」


雅客は自身よりも傷が目立つ悠寿の姿を見るなり、呆れながた表情を浮かべつつ、気絶している三人に手をかざす。



「―――…」


雅客が呪文のような言葉を呟きながら、三人に対し空中で手を滑らせる。すると、そこには一枚の写真を置いて、三人の姿は消えてしまった。



「あれ、何処へやったの?」


「ん?…全員まとめて家に返しただけだから気にすんな。ついでに彼奴等三人分の傷を全て俺に移植させたから、これでお互い仲良く卯島行きだな。」


にちゃあという効果音が似合うような笑い方をする雅客。

しかし、咄嗟に悠寿の顔は腐ったブルーベリーのような色へ変色した。



「…あ、嘘だよ?ていうか彼奴の趣味嗜好的に、怪我の治療に効く薬くれって言ったところでもらえるのはただのヤベえ薬品の詰め合わせオンパレードだしよ。」


そういうと、雅客は手をうにょうにょと奇妙な動きをして見せる。それを目にした悠寿は少し引き目で見ているものの、やっている本人は楽しそうな笑みを浮かべていた。





「はぁ…それなら驚かさないでよ…ボク卯島は苦手なんだから。ふぅ、取り敢えず今今日は遊覧飛行でもしながら呑気に帰りますか。」


「さんせ〜。でも俺達怪我人だからな…事務所の屋上で天体観測でもしながら、夜食食べて寝落ちするか。」


「それデブ活じゃない?…でもさっき沢山動いたからプラマイゼロか!!なら良き、食べよ食べよ〜」


深夜四時半。

高齢者の方々が目を覚ましていたり、或いは友人とインターネットで共にゲームをプレイしていたりなど、それぞれの趣味や大切な睡眠時間に当てられる時間帯。

そこに紛れ込むように、とある路地裏付近では男女の仲睦まじく快楽に話す声が聞こえてきたんだとか。



そして後日。

普段は人っ子一人さえいない物静かな路地裏の片隅のような場所にある“事故物件“として、お世辞にも良いものとして受け入れられず異端として扱われていた探偵事務所の評価がほんの少し上がっていたらしい。

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