四十件目 断処理大会

深夜の唐紅に染まった満月の下、誰一人としているはずがない深夜の高層ビルにほぼ背丈の変わらない二人の影が床に現像される。


「おい、悠寿。もう少し近く歩いてくれねえと、いつ不審者が現れても万全な状態で守れねえだろ。」


雅客は悠寿のパーカーをぐいぐいと引っ張りながら、自身の方へ引き寄せようと試みる。しかしこの少女(実際は、本当に女なのかは不明)はそう簡単に男に守られたいと素直に甘えるほど、ほぼ高確率の絶対的な意味でデレデレなどしない。



「は?ボクより弱いくせに強がんないでよ。というか、そんなに悪霊退散したいんだったら、さっさと一人で倒してくれば?ボクは手がかりを探しつつ、必ず恐神達を助け出して、この事件を解決させるの。――…例え自分を犠牲にしても、ね。」


「…別にお前自身を犠牲にしてまで頑張ることじゃねえだろ。つかそんな事させねえ為に俺がいるんだからよ、もう少しは可愛らしくぶりっ子キャラでも演じてろよ。」


「ヨ・ケ・イ・な・お・せ・わ・で・す♡♡」



静寂に包まれた建物内には、俗に言うバカップルなのか犬猿の仲でありながらも何故か息の合うコンビなのか頭を抱えて悩ませる声が飛び交っている。



「あ、そうだ。此処って確かあれ…えっと、ボクの記憶がおかしくなければ、…昼間に恐神達が派遣社員として出勤させられた職場だったはず。…否、それか…――」


少女は子供らしい指先を自身の顎に添えて、一人事を呟きながら考え始める。その少女の様子に反応し、横からは少年の声が鼓膜へと容赦なく侵入する。


「それか…の後は何?もしかして、悠寿が別途の依頼で来たことがある場所とか?」


「――…まあ、それは強ち間違ってないかも。でもあの時見た建物の構造と何処か違うはずなのに、何故か似てるようにも見える。誰かが化かしたのか…?」




「化かす、ねぇ〜…。んま、俺なら死神さん《悠寿》が考えるものとは別の作戦で騙すけど。例えば、この建物に入った瞬間に二度と出れないようにするとか〜、犯人や誰かの見た記憶を疑似体験させたりするかな。」


雅客は壁のデザインに手を添え、指で何か文字を綴るように話し続ける。



「…なるほど。ちなみに聞くけどさ、…雅客が犯人の立場になって考えるとしたら、この状況で相手に何を求めてると思う?」


先程の無邪気に笑う少女の面影は消えてなくなり、代わりに夜の星空が似合う様な物静かな雰囲気を漂わせている。其の姿は童話に出てくる人物として存在しても、違和感はないほどに綺麗だ。


「ちょっと難儀な質問だね…。ん〜…もし俺が犯人だとしたら、一番強くて厄介な人物から処理していくかな。特に、そいつが皆を引っ張っていくようなリーダー気質を持ち合わせていたり、いつでも前向きで尚且つ悠寿みたいな“死神“とかだったら、更に狙いを定めるわ。」


ばん、


月光に照らされ金星のように光り輝く髪の少女に向けて、指を向けて一言言い放つ雅客。するとにこりと笑ってから、“どう?少しはどきっとしてくれた?“といたずらげな笑みを浮かべるのであった。


「――…雅客はそう考えるか…。でも今回狙われたのは、ボク以外の三人。そう考えると、ボクを処理しようとしているようには思えないんだけど…」


「あれれ、今日は随分と鈍感だな。…まぁ飽くまで俺が犯人だとしたらって前提で話すけど、もし俺の読みが当たっているのならば、相手は相当悠寿の性格やクセを理解していると思うよ。じゃないと、こんな一気に三人も捕まえたりなんてしないはずさ。」


少し不服そうな表情を浮かべ、少し毛玉が浮き出たシートを足で蹴飛ばすように歩きつつ、引き続き何か手がかりがないか探す悠寿。



「で、ボクはどうすればいいわけ?…何だか今の話を聞いてる感じ、ボクが全面的に悪いようにしか聞こえないんだけど。」



「まぁむっとするなよ。俺はお前の事責めたくて言ったわけじゃないし、寧ろ悠寿の良いところでありながらも俺が懸念しているところを言っただけ。



  ―――…それに、丁度タイミング良くお客さんも現れてくれたしね。」


先程からつま先に体重をかけつつ、しゃがむ体勢で床とにらめっこしていた雅客は立ち上がり、奥にいるナニカを指さしながら呟いた。




「…ボクのこと怒らせた分、沢山教育してあげるよ。…先輩として。」


悠寿は先程の雅客の話を聞いて、自分の弱さのせいで仲間を守れなかったんじゃないか、といった無力な自分に対する強くイラつきを感じていた。


「おぉ?それは楽しみだけど、相手も中々手強そうだよ?――…だってあれ、






























       友達恐神達だもの。」

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