四十四件目 捜シ物ノオ迎ヱ

その頃、南西を中心に調査に向かった三人はというと、



「…おい、何で俺が速歩きしたらお前達もペースを合わせて、逆に遅くしたらお前達も遅くするんだよ。俺はお前達のことを信用できるほど、どこぞの死神女と違ってガードが緩いわけじゃねぇし。」


雅客はまだ信用していない人物、――恐神達が自分のパーソナルスペースを平気で乗り越えて近寄って来ることが気に食わないらしい。しかしそんな事はお構いなしに二人は近寄ってくる。



「別にいいだろ〜?そんな怪しい人物ってわけじゃねぇし、悠寿の知り合いってだけでもまだ良い方に見てくれよ〜」


「えっと…、前に悠寿さんから“相手と仲良くなりたい時は、自分から積極的にアプローチしないとだめだよ“って教えていただいたので!!」


二人は悪意のない純粋な眼差しで雅客を見つめる。それとは対象的に、雅客の方はつまらぬものを見て気分を悪くした、とでも言いたげな表情で二人を見つめ返した。




「…そーかよ。つか今は調査の最中なんだろ、俺はお前達の事務所の関係者じゃねぇんだから、さっさと自分達で聞き込みにいけよ。」


「え〜〜、そんな冷たくあしらわれたらオレ泣いちゃうって…。」


そんな他愛のない話で盛り上がっていると、何処からかサイレンの音が聞こえてきた。普段よりもズキズキと耳に響き、音はどんどん大きくなっている。


「何だか余り良い気はしねぇ音だな。どんどん俺らのところに音が近づいて聞こえてくるし…。」



「?…近隣で何か起きたのでしょうか。」


お岩は首を傾げながら辺りを見回した。

すると、彼女に話しかけられるのを待っていたかのように、不気味なほど毒リンゴの様な瞳と髪の少年が背後に立っていた。



「お姉さん、誰かをお探しですか?」


「いえ…、あの、えっと…サイレンの音が段々と大きくなっている気がするので、何かご存知ではないかと気になりまして…」


お岩は顎に手を添えながら、少し辺りを見回しつつ何処か焦燥感に駆られたような反応であった。また、背後にいる恐神もお岩と同じ様に、顔に不安が見えている。



「なるほど。もし気になるのでしたら、近くまで行ってみてはどうです?貴方がた…“探偵さん“じゃないと解決出来ない内容かもしれないですよ。」


紫に染まりきった少年は、にたりと笑う。

歯には矯正装置のような者が付けられているのが妙に気になった。


「…おい腐ったブルーベリー頭。俺を此奴等と一緒にするんじゃねぇ。というかなんで近くまで行ったらどうかなんて提案すん、―――…てかお前、」


雅客は何か思い出したように目を見開き、勢いよく目の前にいる少年に対して指を指した。普通なら驚くだろうに、目の前にいる少年はその行動を予知していたように、また口角を上げた。



「…あ、そろそろ僕も時間が。これから私情があるので、此処で失礼します。…早く、お迎えが来るといいですね。」


少年はそう言い残すと、ざわざわと集まってきた野次馬の様な人混みの中に溶けていった。恐らく救急車の音を聞いて、何が起きたのかと確認する為に集まってきたのだろう。



「なんだったんだよ彼奴…。」


「何だか不思議な子でしたね。…取り敢えず、一度此処を離れて別の場所に聞き込みに行きましょうか。」


それから数分後、ひどい頭痛が訪れた。

手足の感覚も分からない。


耳に流れ込んでくる騒がしい音も、白くなった視界も、これから何か起きる前兆として訪れたのだろうか。頭の中には最後に少年が吐いた言葉がこびり付いていた。


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