四十三件目 悪しからずご容赦下さい

「そういや、マイズミって好きな人とかいるの?」


恐神達と分かれた後、“始めに地蔵を確認し、花屋のおばさんに聞き込みを受けてから、北東の方に調査に行くとはどうだろうか“という、マイズミの提案に乗り目的地へ向かう道中、悠寿はマイズミに恋バナを持ちかけた。



「好きな人っすか?ん〜…小学生の時にはいたけど、それからは全然っすね。というか、中学入ってからは恋愛よりも部活と友達で十分満足いってましたし。」


マイズミは特に表情を変えること無く、淡々と述べた。



「なるほどぉ…。マイズミは恵まれているねぇ…。でもマイズミはそれなりに顔が整ってるからさ、少なくとも何人かの女子達はマイズミのこと気になってたんじゃないの〜?」


「さぁ…どうっすかね。何も覚えてないっす。けど、それなりにはモテてたかもしれないっすね…ほぼ九割は鳥に。」


青が点滅する長方形が目に移ると、二人は足を止めた。

そして、マイズミは電柱に止まる鳥を指差し、




「あの鳥、今日の晩御飯にどうっすか?」


マイズミは無表情であり、至って真面目そうにも見えているが、発言は何処か間抜けさが見えている。


「随分とふくよかで身も詰まってそうで凄く美味しそう。けどボクね、今日は最近出た残骸を食べるお仕事があるから。」


にこにこと笑いながら断る悠寿。

だがマイズミは断らない。



「…じゃあ明日の朝食にいかがっすか?それか、タンドリーチキンかなんかにして、直接悠寿さんのとこまでお届けするっすよ。」


「朝にチキンは胃に重いし、ボクにとったら、鳩をタンドリーチキンにするぐらいなら錬金術が使えるつよつよな鳩にしたいなぁ〜〜…。…あ、お話してると信号変わるの早いねぇ、うんうん、じゃあ行こうか。」


それだけ言うと、マイズミが気づいた頃には悠寿は彼一人を置いて先に走り出すように信号を渡り切っていた。








               


「…なるほど。

手がかりになるものは少ないし、被害者数もそれなりにいるのね…。何だか骨の折れる作業が沢山詰まってそう…。」


花屋のおばさんから情報を得た後、例の地蔵の所へと向かった二人。そこで、花屋のおばさんが気を利かせて先に話しておいてくれていたのか、神社の神主も情報提供に協力してくれた。



「そうなんです…。十人程の被害者と手がかりに関しましては既に警察の方々には連絡したのですが、上手く取り合ってもらえずでして…。“ちょうど別の事件で似たような内容があるから、それと同時進行で調べてみる“とは行っていただけたのですが、それからは特に何も情報を貰えたわけではなく…。」


神主はひどく怯えたような表情で、自身が知っている限りの情報を吐き出した。




「ふむ…、因みに十人目の被害者が出たのはいつの話っすか?」


「三日前です。」


神主はマイズミの質問に即答した。



「おお、随分と最近だこと。因みにその情報は何がきっかけで知り得たの?」


マイズミの質問が終了すると、すれ違うように次は悠寿が質問を投げかけた。



「えぇと…此処の神社をよく利用してくださる方からです。」


「それだけだと、ただの噂話にも聞こえてくるけど…。」


マイズミは何処か冷めた普段とは違う悠寿に対し、身に緊張感を持ちながらも二人の会話を手帳に備忘録として残していく。


「…あ、因みにもう一つオレから聞きたいことがあるんすけど、何処でいつ被害が起きたとか、被害者と神主さんが何か関わりとかあったら教えてほしいっす。」


「何処でいつかなんてものは、私が犯人ではないので知らないですけど…、被害者の方達は数名を除いて、たまにこの神社を利用してくれる子達です。」


マイズミは再び手帳に万年筆を走らせる。

そこには、神主の口調や様子、それから外見や話し方から推測されたものが大雑把に記入されているようだ。


「ふむふむ、…じゃあ最後の質問。神主さんは、この事件が “何処で“ “いつ“ 起きたのか知らない。それに、被害者が出た翌日に必ず地蔵に手がかりが残ってるって言ってたけど、それを言い切れる根拠は何?何で被害が起きたことが分かるの?貴方は何者?」


神主はごくりと唾を飲み込んだ。

悠寿は先程までの無機質な機械の様な声と冷めた表情から、段々と純粋な子供らしい表情と愛らしい甘い声へ移り変わっていった。


「私は…――――ただのこの神社の神主です。この情報は、花屋の奥さんや



「じゃあこれは全て、花屋のおばさんから聞いた情報なの?ボク達は、花屋のおばさんから、“神主さんなら何か知ってるかもしれない“って言われてきたんだけど。」


悠寿の中にある好奇心のスイッチが入ったのか、彼女はお構いなしに質問を続ける。そして、先程からメモすることに集中していたマイズミは、神主の顔が一瞬だけぐにゃりと歪み、近距離で獲物に狙い定めるような表情になった姿を見逃さなかった。



「…神主さん、すみません。話の続きで悪いんすけど、僕達これから別の所でも聞き込みをしに行かないといけないんで…。」


「…失礼しました。」


マイズミが会話を遮った事で、少し我に返ったのか悠寿はまた機械的な声で一礼し、マイズミに急かされる様に二人はその場を後にした。







            “その必要はないよ。“





そんな言葉が耳に届いた様な気がしたが、きっとただの空耳だろう。

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