六十件目 四つ目の処方箋は。

*微 残酷描写あり


闇鍋女を無事処理し、ややこしい騒動が終了した。しかし、此の後は闇鍋女の如く更にややこしい奴の相手をしなくてはならない事に雅客は再び頭を抱えた。




「…はぁ……、何で俺がこんなに骨の折れる仕事ばかりやらなくちゃいけないんだよ。例のリーマンの件といい…此の世の人間は自分の命位どうにかしろよ…。そもそもこんな面倒な奴の相手まで…死後世界に労働基準法が定まってねェのかよ…。」


「…(コクコク)」


鳥かごとリュックサックに双子の顔を用いた気味の悪い趣味を持つジャージ姿の女か男かよく分からない奴、――卯島はまるで他人事の様に“うんうん“と頷いた。そして当たり前に茶を啜ろうとする卯島を見た雅客は、更に顔を顰めた。




「…おい、卯島。」


「?」


「…お前、今の話を他人事の様に聞いていたようだがなァ…、後半の話は全部お前の事だぞ。それとお前、口が縫われてて何も飲めねぇのによ、何で当たり前な顔して茶を啜ろうとしてんだよ。鼻で飲め、鼻で。」


「…。(だって子供達に縫われたんだもん。)」


雅客はピーピー騒ぎ立てる。が、卯島は気にせず茶を啜る作業に勤しむものの、雅客が言う通り一向に口内に茶が侵入する事は無い。



「はぁ…何で此処はツッコミがいないんだよ…。…あ、で、そうだよお前。薬寄越せ。この恐神ら《餓鬼共》が眠ってて困ってんだよ。」


「…。(代償無くない?死神もいないし、そもそも之は何でこうなったの?)」


「…色々あるんだよ。詳しくは情報屋にでも聞け、…と言いたい所だが少しぐらいならこうなった経緯を聞かせてやるよ。」





             ***



雅客は喉が渇くまで話し続けると、「はぁ…疲れた。」とぼやきながらオレンジジュースをがぶ飲みした。



「…。(なるほど、それは最難だ。でもその“闇鍋子“はまだくたばってないだろうね。…因みに其のオレンジジュースは誰の?)」


「まァな。ただ今度はもう二度とあの姿で戻ってこれねぇだろ。輝虎さんがやって来た時点で身体何ぞボロッボロに擦り下ろされるからな。」


「…。(なるほど。…じゃあ、薬の件に戻るけど“死神が闇鍋子に消された“っていう記憶を頂こう。あ、闇鍋子の存在は残るけど死神と闇鍋子がその後どうなったかっていう記憶が抜けちゃうだけ。)」


卯島はふんふん、と頷きながら我ながら良い案だ…と縫われた口をなぞる。雅客は、普段よりも軽い代償に何処か疑問を感じた。




「…なるほど?俺は別に構わねぇけど…代償軽くね?」


少し俯きながら考え込んだ後、卯島の言葉の意味に違和感を持ち顔を上げ反応する。だが目の前に見えるのは眠る社員達の姿のみ。そして、卯島が一生懸命に茶を啜ろうと勤しんでいた席には、四つ分の処方箋が置かれている。




「…は?四つ?…分かりやすくこれだけ色が違うじゃねぇか。何の為にこれを用意しやがったのか。取り敢えず…御守代わりに持っておいても損はねぇだろ。」


雅客は四つ目の処方箋をズボンのポケットに仕舞い、眠る社員達に三つ分の処方箋をそれぞれに飲ませた。

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