五十九件目 闇鍋女
*微 残酷描写あり
時は戻り、探偵事務所の話になる。室内には見慣れた顔なのに知らない化け物が一人ケタケタと笑い続けている。
「…あれ、頭痛くなっちゃったの〜?…じゃあ、君達も楽にしてあげる♡」
悠寿に擬態した女の発言と共に、
「あは…ははは……はは‥ぁ“あ“は“ははっはははははは!!!!♡♡
―――…はぁ〜〜〜……何でかしら、何でこんな
悠寿の顔をした女は、表情がしわくちゃになるほど笑い続ける。「やっぱ何事も破壊するのが一番楽しいのよ!!」と、げらげら笑いながら唯一倒れていない雅客の方に身体を向けた。
「…あれぇ…?♡♡ワタシ、さっき全員の脳ミソぜ〜〜んぶ破壊させた《記憶を削除した》つもりだったんだけど。ねぇ、ねえねえねえねえねえねえ!!何でキミだけそんなけろっとした顔で立ってんの?可笑しいよねぇ…?何で?ねえ何で?何でなの?」
「ごちゃごちゃうるっせぇ化け物だなァ…。」
雅客は、詰め寄ってくる偽物に対して近くの掃除用具入れから細長いモップを持ってきて、その先端を女の顔面に向けた。
「ぅ“…何の嫌がらせ?汚いんですケド。例えワタシが偽物だって分かっていても、此の顔を見て躊躇ったりしないの?ねぇ、キミの彼女の顔でもできちゃうの?」
「悠寿が俺の彼女だと?滑稽な事いう馬鹿もいるもんだなァ…。でもな、生憎だがお前の馬鹿げた行動のせいで俺は仕事が増えちまったんだよ。反省がてら焼き窯でぐつぐつ炙られてろ。」
モップをくるりと回転させ、床を何度かゴンゴンと強く叩く。
「はぁ…キミも馬鹿馬鹿しくて凄くニンゲンらしくて愛おしい…♡♡
モップ如きで何が出来るというの?そんなくだらない茶番は嫌いな癖にばかじゃな……、――…は?」
女の足元に小さな穴が開いている。其の穴から、息苦しさに蠢く怨霊達が女の足にうめき声を上げ穴を無理矢理拡大させながら、次々と女の足へと絡みついてくる。女は次々と溢れ出てくる怨霊を容赦なく蹴飛ばし続けるが、再び蘇る様に足に巻き付いてくる。
「…下の方見てみろよ、お前の事を今か今かとお待ちの男どもがわんさか集まってるぜ?早く行ってやれよ。」
「ワタシを待っている…男ですって?」
毒々しい色合いの液体が溢れ返る闇鍋のようなものが女の視界を埋め尽くす。又、豆粒程度の大きさでしか見えていないが、何事かと確認しに来た悠寿の“兄“も傍で見守っている。
「お、あんな所に
口が裂けた様な笑みをこぼしながら、女を容赦なく追い詰める雅客。其の姿は本物の鬼のようだ。其の中で、先程までは自分の思い通りに進んでいたはずの計画をすっかり台無しにされた事によって、苛つきが隠せない女。
「…最期に何か言い残した事は?」
「“最期“?…只の闇鍋みたいな場所に突き落とされただけで、ワタシの終焉が決まるとでも?あははははははははは!!馬鹿馬鹿しい!!本当に男って脳がなくて話にならない!!!!」
女は狂気に満ちた顔で再び笑い出した。すると、先程から何か考え込んでいた輝虎に雅客は合図を送った。
「…あともう少しだったのに、――残念。時間切れ。」
先程まで豆粒程度にしか見えない距離にいたはずの輝虎がふわり、と至近距離に現れる。彼は目の前にいる女に触れると、女に息をする暇を与える事もなく手の中に収まるサイズに変化させ、それを手の中でぎゅっと温める様に握りしめた。
「相変わらずやることが残酷っすね。…まぁ、えげつないとこが目に見えてるわけじゃないだけいいっすけど…。」
「妹に擬態したのが悪いのさ。…それじゃあ、後の始末は頼んだよ。」
それだけ伝えると、輝虎は穴が縮んでいくのと共に暗闇へ消えて行ってしまった。社員達が眠りに誘われた世界に一人、「…仕事増やしやがって。」と述べる雅客の声が取り残された空間に響き渡った。
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