二十四件目 ダイナミック・ハプニング
一時限目、体育。
今日行う体育の授業内容はバレーボールらしい。
歓声と奇声、ボールが何かに衝突する音や靴が床と摩擦を生じて鳴る音など、次から次へと耳に入ってくる。見ているだけでも楽しいが、やはり自分でやる方がボクは好きだ。
なのにこの男は...
「え、ねぇ隼世ちゃんてさ、スポーツできる人なの?俺スポーツできる子好きだよ〜!!特にね、スポーツやってる子のあの筋肉質な足がたまらなく好きでさ〜」
と、こういう風に自身のフェチを語りだしながら、ボクを逃さんと言うかのように身体を全身ホールドしてくる男のせいで何も出来ないのが現状だ。
そろそろ...、というかいい加減この状態から開放されたい。だが先程からずっとこの会話をループし続けているのである。
「あぁ、そうですか。...私そろそろ試合でなくちゃいけないから、あっち行っててほしいんだけど...」
「え??俺と離れて何処行くつもり??」
「そうね、だってジャマだし動きにくいもの。...ていうか彼氏面するの辞めてほしいんだけど...」
「逃さないよ」
そしてまた抱き締められる力が急に強くなる。いや蛇じゃないんだからやめろよ。いやくまかお前。
「隼世初日からモテモテだね」
離れたところでボクの様子を見ていた、隣の席の風間がいじりにやってきた。変な誤解が増えていきそうで嫌だなほんとに...
「否モテモテじゃない、此奴が私に一方的にまとわりついてくるだけなの。」
腹の上に載せているスマホがメールの通知を知らせて軽く振動する。その振動音と共に、可愛らしい通知音が鳴り響く。あれ、もしかしてボク初回授業から生徒指導入っちゃう感じか?これ...
「あれ、隼世ちゃんもしかして授業放棄してスマホ使っちゃうタイプの不良ちゃんだったの〜??」
やべ、腹の上に乗せるんじゃなかった
ボクの身体と自身の体で、ボクのスマホをサンドウィッチ状態にさせている渚々世が反応してきた。ちくしょう、こいつ何処まで面倒なんだよほんとに...
「は?こっちは家庭の事情でスマホの通知を音のままにしてるだけなのに、勝手に決めつけるのはやめてほしいんだけど。」
「えほんとに??じゃあ証明してよ。」
恋愛脳か否かと、考え方の違いによるズレで脳内でゲシュタルト崩壊が起こってきてる気がする。こいつの言う’’証明してよ’’は、きっとあれだ。恋愛ドラマの見すぎで思わず口から漏れてしまった、所謂誤爆みたいなものだろうきっと。否絶対それしか有り得ないんだから。
「証明するとかそういう問題じゃないから...」
まだ確認しているわけではないけれど、恐らくこのタイミングで送ってくる人物といえばきっと彼奴しかいない。
肉壁に埋もれたスマホを救済するように手をねじ込ませ、渚々世の身体をも引き剥がそうと試みる。まじこいつ授業始まる寸前に体中にアロンアルファ塗りたくったんかって聞きたくなる位離れないじゃん...(引)
「ねえ隼世ちゃんめっちゃ大胆〜〜やだぁ〜」
「うるさい変な声出すなッ...周りに聴かれるでしょ。」
「えなんかだいじょぶ...?めっちゃ辛そうな声出してるけど、力入れると更に辛いのそっちだよ??」
「ならあんたが離れればいいで...ッ!?」
無理矢理身体を起こした状態で、渚々世を引き離そうとしていたからかバランスを崩し、視界が横に90度傾く。体育館内で蠢き合う足音が、心做しか耳に直接侵入してくる感覚が妙に心地よく感じる。
「ねぇ、俺の声ちゃんと聞こえてた??」
そして、変態的な意味で言っているわけではないけれど、普段とは違った目線から見えるこの試合風景も何だか新鮮で、意識を盗まれていくような身体が溶けていくような体感も何処か惚れ惚れしてしまう。
「...おい、無視しないでほしいんだけど、つかこっち見ろ。」
試合風景に惚気けていたボクの意識を引き寄せるように、重低音の効いた声とくすぐったい艶のいい菫色の髪が私の額をくすぐる。
「...?無視してるわけじゃ...」
「いや絶対無視して...――
無視してるわけじゃ’’ない’’と言い切ろうとした瞬間、床に鳴り響く体育館シューズがの擦れる音と、数名の女子生徒の奇声が鼓膜を潰すように入ってきた。
「...ッいたた......」
「ごめん渚々世...怪我してない...??俺の鋭いつよつよスパイクが真逆無防備の渚々世に当たるとは思ってなかった...
んでも久田さんのこと守ってくれて有難う!!お前は今日のMVPだな!!」
「いやさすが渚々世だな!!俺らの英雄だわ!!」
一体どういうことだろう...と思いながら、ボクの上に覆い被さる渚々世の逞しくも少し細めな身体の隙間から見える周囲の様子を確認したところ、どうやら試合中に誤ってアウトゾーンに飛んできたボールが、たまたま渚々世の身体にぶつかったらしい。
そして、その姿がボクを庇っているように見えて、今の状況に至る...とのことだ。
「...よし、この隙間に...」
少し緩んだ拘束を逃さないようにして、身体を起こして渚々世から逃げてやろうと体制を整えると、
「え?何処行く気??...俺が他のに気を取られてる隙間に逃げれるとでも思ってんの?」
と言いながら、またしても初対面からヤンデレを醸し出す渚々世の悪態に飲まれそうになるも、渚々世を連行していくクラスメイトのおかげで私は自由の身となり、そのまま学校を早退することとなった。
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