二十三件目 不憫な派遣社員

PM12:00


取締役と思わしきやつに、人事部の仕事を任され、恐神先輩の普段とは違う動きが少々気がかりではあるが、悠寿さんにヘルプメッセージを送った後、恐神先輩の意思のもと人事部に向かってからの話である。


「はぁ〜...恐神先輩、そろそろ俺らはおひらきでいいんじゃないっすかね?

確か俺らが頼まれた仕事は、もう既に終わってますし...逆に今やってるのって押し付けられて渋々やってるものですし...」


「あぁ...それなら昼飯でも食いに...」


エアコンの当たらない且つ窓際からも離れている席に案内されたからなのか、汗で服が肌に対してひっついている感覚が妙に気持ちが悪い。そしてこの職場の雰囲気が好きになれない。


何故俺達には仕事を沢山押し付けてくるくせに、自分たちは世間話だの夫や彼氏のぐちだので盛り上がりながら騒いでいるのだろうか。こっちは’’何でも屋’’のようにこき使って良いものと感じているのかもしれないが、所詮俺達はレンタルで手伝いに来たボランティアと変わりないのだから、本職員としての心構えを今一度確認して頂きたい。



「あれ、ねぇあんた達仕事終わったの?私達まだご飯食べてないのに先にご飯食べに行くとかおかしいんじゃない??」


此方が疑問に思いながら見ていた視線に気づいたのか、逆上するようにやや年令を重ねた女性社員が声を荒げる。


「食事を摂るタイミングに上下関係は関係ないですよね??それに、俺達は仕事の量が増えすぎたせいで手が回らないということで、手伝いに来た身であり、言わば派遣社員のような者です。そして、本日頼まれた分の仕事は全て完了致しましたので、我々はこれでお暇させて頂きます。」


また一瞬だけ恐神の顔がこわばる。普段はこんな表情を見せられたことは今まで一度もなかったのに、何か過去に似た経験に遭ったのだろうか。


「はぁっ!?先に帰るですって!!?あなた達ねぇ!!新人社員のくせして生意気なのよ!!」


ほんの一瞬、逆上してきた女性社員に対して俺自身の愚見を述べたあと、恐神の顔色を伺おうとしたその時のことであった。


「あっっっつ...」


頭部を狙うようにかけられた熱を帯びた苦い液体が体温毎侵食してくる。幸い恐神先輩の顔にはかからなかっただけまだ安心だ。


「あらごめんなさい、手が滑っちゃって。でもまぁ、ドブみたいで似合ってるんじゃないの??」


「マイズミ...俺のせいで...」


「いえ、大丈夫ですよ先輩。とりあえずファミレスでも行きましょうか。悠寿さんに現状報告も兼ねて。...それに我々の今日の手荷物は、スマホと財布しか無いので特に大きい手荷物は無いですし直ぐ行けますよ。」


恐神先輩が少しだけ女性のようにか弱く儚い存在に見えたのを押し潰して隠し通すようにし、目の前にいる女性社員を雑草のような目で見ながらその場を後にした。

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