四十六件目 青い鳥の様な死神
次に悠寿が目を開くと、其処には見知らぬ景色が広がっていた。騒がしい声ががやがやと聞こえてくる。
辺りにいる人間は皆着物姿。
戸惑う事もなく、悠寿は状況を理解した。
「ふわぁ…眠い眠い。」
悠寿はまるで日常茶飯事の出来事を目の当たりにした様な様子だ。
仮の姿である金髪ショートから黒髪ロングに戻った悠寿は、伸びた髪をいじりながら眠い目を擦る。太陽の光が心地良くて、日向ぼっこをしている気分になれる。
「うぅ…いてて…。此処何処だよ…。」
また、少し離れたところには着物姿に変化したマイズミの姿があった。彼の様子から察すると、どうやら身体を強く打ったようだ。
「あれれ、マイズミ大丈夫そう〜?」
「ん…?あぁ…悠寿さんすか…。雰囲気変わるとやっぱ一瞬誰かわからなくなるものっすね…。前のお岩さんの件と同様に、此処に飛ばしたのって…」
自身の腰を慰めるように撫でるマイズミ。
対して悠寿の方は、早くもこの街の人間に溶け込んでいるようで、マイズミのような焦燥感は一切見えない。
「ううん、今回の件は私じゃないよ。恐らく他の人の仕業じゃない?
―――…まぁそれはさておき、マイズミよ、依頼の件もあるけど少しこの街を探索して楽しもうではないか!!」
マイズミは、悠寿が発した斜め上をいく発言にぎょっとした。
「え、は…?と、唐突に何言ってるんすか…?恐神先輩達ともまだ合流できていないっていうのに、こんな所で呑気に過ごしていても何も意味を成さないと思うんすけど…。」
「大丈夫だよ、きっと“恐神達“も“この事件の真相“も’’見つかると思うし、ね?」
少女は愛らしい顔でにこりと笑った。すると、何処からか聞き覚えのある騒がしい声が聞こえてきた。
「おい悠寿お前―――!!また変な所飛ばしただろ!!」
遠くから信じられない速さで走ってきたのは、ちょうど噂になっていた恐神だ。しかし、お岩と雅客の姿が見つからない。
「いやいや…今マイズミにも教えたけど、今回の件は私じゃないんですケド。というか、雅客とお岩ちゃんは?もしかして、恐神あんた置いてきたの?」
「…あ。」
恐神は何かを思い出すと、えへへ…と呟きながらにやっと笑って誤魔化した。
「あ、じゃないのよ。えへへとか言ってる暇があったら探してきなさい!!」
・
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その後、甘味処で空腹を満たしたお岩と雅客を連れた恐神が戻ってきた。
「はぁ…私は女と言えるほど若々しくはないけど、恐神は“女“に優しくなれるように精進しなさいよ。」
「へーい…。――…あ、そうだ。悠寿お前さ、さっき俺達のこと探してたって言ってただろ?でも今は全員揃ったわけだし、前みたいに悠寿の力でさっさと現世に戻って、依頼の聞き込み調査でも再開しようぜ。」
耳につけたピアスをいじりながら悠寿に提案する恐神だが、悠寿は少し曇った表情で返答した。
「本当はそうしたい所なんだけどね、―――…私、折角だから此処の街を楽しんでから帰りたいんだ!!だって偽物じゃなくて正真正銘の本物だし、こんなの今しか楽しめないんだしさ!!」
真面目な声色から、段々と無邪気な子供らしい声へ変化する。悠寿の発言を聞き、全員が呆れ気味な反応をする所で、今度は雅客が口を開いた。
「…何だかお前達が少し不憫だが、悠寿の我儘は“絶対“だ。此奴が“あれしたい“と言った時には必ずそれを遂行させなくてはならない。断るという選択肢は無論なしだ。もしも悠寿に抗おうとする者は、次に目を開いた時には八大地獄が待っているだろう。…って噂があるから気をつけろ。」
雅客は終始真剣な眼差しではあるが、反して悠寿の方はにこにこと子供らしい笑みである。
「な、なるほど…。因みによ、それでもされど“ただのちびっ子と同じ我儘“みたいなものだろ?それに噂なら半信半疑でも大丈夫だろ。」
先程の明るい雰囲気から、少しシビアな空気感へと変わった事にまだ気持ちが追いつかないものの、疑問に感じたことを投げかける恐神。しかし、雅客の返答は何処か節操としているようにも感じさせられた。
「さぁな。俺は実際に被害に巻き込まれた者じゃねぇけど、
「――…では何処か甘味処にでも、…あれ、悠寿さん?」
場の空気を和ませようと口を開いたお岩。
しかし、その場から主役の姿は消えていた。
「あれ、悠寿さんたら我慢できなくて一人で甘味処の方へ行っちゃったんですかね?相変わらず青い鳥みたいな人っすねぇ…。」
マイズミは苦笑しながら辺りをキョロキョロと見回すが、昼間なのにも関わらず人混みが多いせいで何処にいるのか見当たらない。
「彼奴チビだからな…。探そうにも、普段のあの金髪頭じゃなければ…。」
「一応あれは“仮“の姿だからな。さっき見た姿が本物だぞ。」
恐神の発言に対し、雅客が横からツッコミを入れる。それと同時に、川の方から女性の悲鳴が聞こえてきた。
「ぎゃああああ!!私の息子が!!」
「お、かあ、さま、!!たす、け“て“」
小さな子供が川で溺れている。おそらく川遊びか今日の飯にありつく為に、魚釣りをしていたところで、滑り落ちてしまったのだろう。また、周囲に障害物が多く岩は滑りやすい為、大人の男性が飛び込もうとするが事態は難航している。
「ちょっと俺行ってきます」
ようやく事態を飲み込んだマイズミが走り出そうとした刹那、雅客がマイズミを引き止めた。
「ちょっと待て、焦らなくてもあのガキは助かる。よぉ〜く見とけ。」
雅客の発言に対し再び不可解な状況に直面したマイズミだが、もう一度川の方を見ると捜し
「う〜今日の川はちょっと寒かったかなぁ…。坊や、大丈夫?」
そこには、少年を抱きかかえながら何匹かの魚の入った少年の籠を背負った悠寿の姿が見えた。こちらの姿に気づくとにひっとはにかみながら、少年の母に全て受け渡し少し雑談している様子が見られた。
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