六十二件目 問題児だらけ

子供達が村へ先へ戻った直後、腕の中で抱かれていた子狐が急に悠寿の胸から飛び出し姿を変化させた。先程の子狐を想像させない程がたいの良い高身長の男だ。


「ぐ“ッ…はぁ…おい死神!!俺が黙っていたらそんなデタラメなコトばっかあのアンポンタン共に教えおって…。何のつもりだよお前。」


「ん?…お、人間にも慣れたのか。凄いねぇ…子狐さん。ボク今凄い感動してるよ。でも君にとったら其の方が好都合でしょう?ご飯もたくさん食べられるし、皆が君を守ってくれる。そして君が村人を守れば更に良いことづくし。…はい、解決。」


にこにこと笑いながら手をたたき、このまま直行で帰る悠寿の腕を掴み引き止める。体格差がある為、悠寿は男の胸にもたれかかる体制になる。



「え、何。ボク帰りたいんですけど。君は恐らくそこら辺に湧いてる怨霊ぐらいなら倒せそうな気がするし、ボクがいなくても大丈夫そうじゃない?違う?」


「あのなぁ‥‥別に俺にとったらお前がいるかどうかなんてどうでも良いんだよ。俺はあのアンポンタンに義理も何もねぇ。俺はな、別に一人でも余裕で倒せっけど言葉の責任ぐらいは取れや、逃げ腰死神。」


悠寿の心が風船を針で刺される様にちくりと傷んだ。




「…はぁ〜…、真逆子狐さんがそんなに求めてくるとは。ちょっと礼儀とか諸々教えるついでにね。…それとボクのことは“逃げ腰死神“って呼ばないでくれる?先生ね、先生。」


「は?笑わせんな。お前の何処に先生って呼べる要素が詰まってんだよ。喉仏に爪立ててやろうか。それとも四股全て切り刻むか?」


「はいはいそういうところだぞ子狐さん。」


悠寿が男の頬に手を添える。その数秒後、小さな爆発音と共に再び子狐の姿に戻ってしまった。子狐の姿となってしまった男は悠寿に鋭い爪でがりがりと引っ掻いた。




「うふふ、…言う事聞けるように為るまではその姿で頑張ってね♡」


死神らしくない小悪魔的な甘ったるい声を出しながら、にたにたと笑いながら男に話しかける悠寿は、子狐の姿に戻された男にとっては恐怖演出でしかなかった。





               ***



*残酷描写あり



         

子狐の姿となった男と悠寿が村を訪れると、村人達は自身の手に持っている武器を向けぎろりと睨みつけた。


「お前の事は子供から聞いた。死神を名乗る餓鬼如きに此の村の伝統の何が分かるというのだ。“人身御供“をやめて狐を敬えだと?そしたら我々の衣食住に大きな支障が出てしまう。子に嘘を吹き込むな。」


「はぁ…之だから頭のお硬い大人は…。今ぐらいはボクの言う事聞いてくれても良いんじゃないの?じゃないといざ化け物が現れた時に助けてあげないけど。」


しかし村人らの表情は変わらぬまま、悠寿を睨んだままだ。村人達の相変わらずの態度を目に焼き付けると、悠寿は呆れたように口を開いた。



「じゃあ、…ボクはどうなっても知らな…―――」


悠寿が子狐を足元に下ろした瞬間、村人の一人が悠寿に鎖を巻き付けた。



「ッ“!!捉えたぞ!!此の死神を生贄にすれば――!!」


「縺。縺奇ス九s��スゑス搾ス�ス具ス奇ス�ス�ス�!!」


村人が歪んだ笑みを浮かべながらげらげらと笑い出した瞬間、横殴りの様に女の人間によく似た化け物が村人の腕をもぎ取った。



「うわあああああああ!!」


「…ほらね、だから言う事聞けって言った…の!!」


消えた腕を想う暇も無く化け物に囚われ、今にも化け物の一部になりかけている村人に攻撃が当たらぬように配慮しながら、化け物の顔に鋭い回し蹴りを炸裂する。村人は無事解放され、悠寿は村人を支えながら近くの者に受け渡す。



「…ボクの事まだ信用していないだろうけど、早く止血して此の解毒剤を飲ませてあげて。じゃないと此の人が“化け物になる“から。」


「し、死神…お前…」


「何。ボクがやった訳じゃないのは見ていたでしょう?…他の犠牲者を出さない為にも分かったらさっさと仕事しろ。」



悠寿は釘を刺すように村人に告げると、再び此方に向かってくる化け物に視線を向ける。元々此処の村の人間だったのだろうか。一部の村人は唖然とした表情のまま硬直している。




「…怨霊になってしまったのならしょうがない。それに君は生身の人間を傷つけた、…その代償は大きいよ。」


片手にはいつの間にか登場した怪しく光沢を魅せる大鎌。死神少女は、目の前で切断された腕をしゃぶり口に血赤色の口紅を塗りたくった化け物に容赦なく鎌を振り下ろした。


              

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