そのお惱み、成仏します。

比嘉パセリ

第一章 貴女に幸あれ

一件目 四谷怪談の恋

地球温暖化が進み、熱中症で倒れる人が続出する世の中を、蝉だの蚊だの虫嫌いなオレを殺しに来てるのか?と疑いたくなる位騒がしい日が続いている。


‘’はぁ...何でこんなに暑い日が続いてるんだよ...俺が何したっていうんだよ...‘’


隣で俺と同じ様に扇風機に当たりながら、助手のマイズミと名乗る性別が未だにどっちなのか分からないやつは普段着ている白のワイシャツで白い柔肌を仰ぐようにしながら、ソファにぐったりと横になっていた。


「あっっっっっついなぁ...」


そう言いながら俺は、‘’家電は叩けば治るだろ‘’という父の言葉を思い出し何回かに渡り家電に対して少々優しめに叩いてみる。


「恐神先輩、それしても治らないっすよ」


「まじかよ...」


状況説明が遅くなったが、現在この探偵事務所内に一風変わった風格をした、中古でこの物件を買ったときから付属としてついているエアコンが遂にぶっ壊れたせいで、室内にある二台の扇風機が俺と助手の唯一の光となっていた。


「あっっっっっっっついなぁ…」


「恐神先輩、煩い。先輩の声が一番五月蝿いっす...」


「何でそんな厳しい事言うんだよ、辛辣な気持ちを歌に込めて嘆くぞ。」


「近所迷惑になると思うんでやめてもらえますか。」


こんな会話が日々続いており、早めの老後生活を送る俺達の日課であった。











「...?あれ、なんか急に冷えてきたな。」


「え?エアコンでも復活したんすかね?万々歳じゃないすか。これでやっと仕事に身が入る...」


「あぁ...そうだな。」


先程まで炎天下の下に捨てられて溶け切ったアイスのように一切動く気力のなかったマイズミの言葉に一瞬戸惑いが隠せなくなりそうになった。なぜならエアコンのスイッチには二人共触れていないし、エアコン自体の電源も、真夏日にいる人間を救済するように動いてなどいないのだ。




「...ちょ、恐神先輩寒いっす...エアコンの温度下げて下さいっす...」


「いや俺は何も触れてなんかないっつーの...」


「え、は...?それってどういう...」


マイズミの言う通り外は蒸し暑くサウナ状態だと言うのに、この探偵事務所内だけが冷蔵庫のように一気に急冷却を起こしたかと見間違える程気温が低下している。そして、ついでにいうとつい最近新しくしたはずの電気の点滅や電子レンジが爆発音のような音を立てたりと、一度に沢山の異常現象を起こしている。何なんだよ一体...、今までこんな事なかっただろうに。



「うらめしや...」


「は?マイズミ何か変な言葉でも呟いたか?」


「いやそれ恐神先輩じゃ...」



‘’うらめしや‘’ 確かに俺の耳にその言葉が入ってきた。とりあえず最初に直ぐ隣りにいるマイズミを疑ってみる。が、ヤツは何も言ってないという。さては幽霊か怨霊かなんかか?真逆幽霊とは程遠いようなこの令和の時代に?


「おい、幽霊。うらめしやってどういう意味だ。喋れんなら答えろ。」


「うらめしや...」


「恐神先輩ッ、何幽霊に喧嘩を売るようなことしてるんすか...祟られたら元も子もないっすよ...」


またもや聞こえた正体不明の声に対して少し怖がった様子で泣きつく子供のように恐神が止めに入るが、俺は気にしない。


「ひょっとしてお前、‘’裏飯屋‘’とでも言いたいのか?この探偵事務所の裏はただのきたねえ路地裏と空き地しかねえぞ。」


「馬鹿だこいつ...」


「あ?マイズミ今俺に何か言ったか」


「いえ、何も」



幽霊にけんかを売った祟りなのか、それとも俺の発言がマイズミの癇に障ったのか何かマイズミに言われたような気がした。


「ッ、うぅ...」


「...?うらめしやうらめしやってずっと騒いでたくせして今度は泣き出してんのか?弱すぎかよ幽霊のくせに...」


急に‘’うらめしや‘’の声が聞こえ無くなったかと思うと、暗闇から透けた姿を露わにさせ、女と思われるソレは身を縮こませて泣き始めていた。



「ちょっと恐神先輩...流石に其れは言いすぎじゃ...」


そういってマイズミはソレに寄り添うかのように頬を濡らす液体に触れた。


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