十二件目 深夜の運動会

*少々暴力表現あり



丁度深夜と日を跨ぐ境界線の間の時間だろうか。



根本的な理由や動機は分からないけど、探偵の二人に言い放った言葉を今更ながら少し後悔し始めるようになってきた。

私の脳が時間に支配されているのだろうか。それとも――



「お前買ってこいっつった酒何処やったんだよおい!!

誰のおかげでお前が此処で暮らせて、誰の金で生活が成り立ってると思ってんだよ!!」


「ごめ、ッなさ...ッ」


普段は酒のお陰で、この男から殴られたりする事は少ない。だがしかし、酒がない場合はこういう風に欲望が暴力へと変化する。一度死んだ体だし所詮夢と同然だと思っていたからもう痛みは感じないと思ったのに、まるで私の方が酒によっているように見えてきた。






なんて。



















「お前なんかでてけや!!」


男の手が私の頭部に伸びてきて、頭部から生えている糸を掴み闇へと放り投げる。



責めてお花にさえなれたら。

あの憎悪の塊の浮気相手の泥棒猫が私になれば。

今が駄目なら、責めて来世は、来世だけでももっと可愛く生まれ変わって愛する男に一生愛されて相手が私に寄ってくれますように。




「あれ、どうしたよ?こんな危ない時間に女...じゃなくて、女の子1人じゃ危ないじゃん」


急に優しい香りが鼻腔をくすぐるようにして現れる。

振り向くと、そこには――















「...?死神さん?」


「お、覚えててくれたんだ。嬉しいな...

今は普段と格好が違うから、気づいてもらえるのかちょっと不安だったけど...」


唐突に現れた死神さんは、最初は暗闇に馬鹿された眼でよく見えなかったから容姿について言われても特に何とも感じることはなかったが、段々視界が暗闇に慣れてきた私の目には、前に見たときの目立つ金髪と心情が読み取りにくいミステリアスな灰色の瞳とは違う、闇に染まる艶髪と鮮血のように赤い瞳が此方を覗いた。



でも何故だか、普段より声が低く感じる彼女の顔はまるで造形品のように見えた。


「あれ...あの、その見た目...」


「うん?ああ、こういう髪色ならいつもの金髪よりも誤魔化せるでしょう?

赤い目は生まれつきってことでさ!!」


そう言って死神さんは私にはにかんだ可愛らしい笑顔で微笑む。

私もこれくらい可愛い笑顔で笑えたら、もっといい男の妻として未練なく成仏できたのかな。




「...?どうしたの?」


「私、‘’死神さん‘’になりたいです。どうしたら、あなたみたいになれるでしょうか。」




‘’ もしこういう可愛い顔が、私のように疱瘡に見舞われて顔が歪み醜いふくわらいのようになれば。 ‘’


少しの歪みが私を蝕んでいき、腐った私の手が目の前の女の顔へと向かっていく。



「なら、今夜‘’運動会‘’してきたらどう?」


「え?まさか死神さん夜の運動会って意味で...?」


私の顔が段々リンゴのように顔が熟してくる。

先程まで伸ばしていた私の手が届く前に、彼女は私の手を優しく両手で握りしめて微笑みかける。笑顔はまるで小さな悪魔のようだった。


「そう!!運動会!

みんなでかけっこしたり、綱引きしたり障害物競走やダンスとか...」


「あれ、あ...そっち...

じゃ、なくて...あの、それだったら明らかに人数が足りませんし...それ以外ならやれるような気がしますが...」


変な意味で捉えてしまったのが恥ずかしくなってきた。

だが死神さんが天然水のような純粋無垢な性格のおかけで、特にバレることなく話が進んだ。


「えっとね、【借り物競争】やりたいの。因みに、最初はお岩ちゃんが最初ね!!」


「借り物競争...えっと...、私が借りるもの?人?お題は何ですか?」


そう言うと、悠寿さんは普段と変わらないにこにことした表情で此方を向きながら、顔の皮膚を剥ぎ取り、


「―――お岩ちゃん、否...お前が借りるのは、


















                        俺だ。」





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