十三件目 策略と感銘
*ほんの少しだけ性描写あり
先程まで死神さんの格好をしていたはずの物体の皮膚が、昆虫の脱皮のように捲れていく。
‘’お岩ちゃん、いやお前が借りるのは――
俺だ。 ‘’
その言葉が耳に入ると共に化けの皮を剥がした正体は、‘’クチの悪い‘’探偵さんだった。
「え、あッ...先程までは死神さんだったはず...之は一体どういうお遊び...?いえ、どういうおつもりですか?」
「遊びじゃねぇよ、ちょっと夜遊びしに行こうぜ。な?
さっき行った通り、お前が今日借りるのはオレだ。なんか自分でも言ってる意味がよく分かってねぇのが事実だけどよ...、とりあえず今夜は遊び呆けようぜ
...あ、あとオレのことは‘’恐神‘’って呼んでくれりゃ良いからよ。」
そう言って‘’恐神‘’さんは、死神さんと同じようなはにかんだ笑顔で私の腕を優しく掴み深い闇へと私をいざなった。
探偵さんは、何が目的でこんな行動に出たんだろう。
そして、相方の男のほうがいないのも不思議でしょうがなく感じる。なんで1人でこんな行動に出たのだろうか。
「あの、...相方の方はいらっしゃらないんですか?」
「ん?ああ...ちょっと腹壊してるっぽくてよ。こっちの世界の薬は効くのか分からねぇから飲まねぇって言いやがるし...彼奴ほんと頑固で仕方がないんだよな...
何か良い薬でも落ちてりゃ良いのにな...」
言葉遣いが悪いからお世辞でも印象が良いとまで言える程の人間とは思っていなかったが、意外と強面そうな表情とは裏腹に天然な人に見受けられたのが少し可愛く見えて、くすっと笑ってしまったことは内緒にしておこう。
「そうなんですね...、
そういえば因みに、今は何処に向かっているのでしょうか...」
「んー...特に何も考えずに進んでんな。ほぼオレの勘で進んでる。
...まぁ何か危ない事が起きそうになったら、オレが守ってやっから安心しろ。」
「...意外と男らしい発言されるんですね、恐神さんって。」
伊右衛門なら必ずと言っていいほど、
‘’1人でどうにかしやがれ。あっち行け。‘’
‘’お前みたいな女のために何で俺が尽くさなくちゃいけねぇんだよ‘’
なんて厳しい言葉を並べて私を蹴落とすように痛々しい事ばかり言うのに、恐神さんもほんの少しだけ初対面の際の印象はどうしても「伊右衛門に近しい男」というイメージが強かったのに、ちょっと甘い言葉をかけられただけで何故か胸が締め付けられるように痛くなった。
「んだよ、オレが男らしくない弱々しいヤツっていうのかよ...
オレだってこれでも男らしい所あるし、女くらい守れる力はちゃんと持ってんだぜ?」
「自分で言うんですね...」
「別に言うのはオレの自由だし良いじゃねぇかよ〜」
私の発言に何か不満を感じたのか、恐神さんは小さい子供のように頬を膨らませて此方を見る。お互い大人のはずなのに、何故か不覚にもまた可愛いと感じてしまった。
伊右衛門と交わしてみたかったけれど、叶わなかった願いがこの人となら叶えられるような気がする。
あの後から大体20分程歩き、小川の近くに見つけた小さなかまくらのような洞窟に入る。
「よし、この洞窟?は防空壕みたくしっかりしているように見受けられるし、殺気奥の方見てきたけど、誰も何もいないことは確認済みだから大丈夫だろう。このまま朝までのんびり星でも見ながら、自由奔放として過ごそうぜ。」
そう言い終わると、恐神さんは自分の隣に羽織を置き、そこをポンポンと叩く。
‘’こっち来いよ。‘’
「...夜の薄気味悪いところだからって、私のこと食べたりとかしないですよね...」
「誰がそんな事するかよ。オレのこと何だと思ってんだよまったく...
そこらへんの常識くらいは流石にオレでも持ってんぞ。」
「すみません、私なんかまぁ一応一回お陀仏している身ですし...それにこんな穢らわしい女と過ごす一夜なんて嫌ですよね...」
そう言いながら、少し距離を取りながら恐神さんの隣に座る。
「あ?オレがいつお前のこと‘’穢らわしい女‘’だつった?」
私の一言が恐神さん自身の癇に障ったのか、一気に恐神さんの声のトーンが下がる。
伊右衛門以外の男にも私は又殴られるのだろうか...
そう思った束の間――
「別にお前のこと抱く事に関しては、旦那がいる時点でできねぇし...それにあったばかりでお互い見ず知らずなのにそんな事したら、お前的にはトラウマになると思ってしねぇんだよ。
...つかオレがいつお前に対して ‘’穢らわしい‘’ つった?
オレはお前の所のクズ男とは違う。もしかしてその自分の顔のこと気にしてんのか?言っちゃ悪いがよ、俺が昔荒れてたときに喧嘩や事故とかで出来た傷で恐らくお前よりも結構ひどい感じでよ、失明する手前までいったのもあるし...
まぁその似たようなのが出来たことあるが...オレなんかソレ見て逆に名前つけてたりしてて...
あ、でも女にとっちゃ怪我は一生の傷とか言うからな...まぁオレ基準でずっと言うのもあれだが、オレにとったらそれでも可愛いと思うけど...」
必死に私のことを慰めようとしてくれているのか、普段の余裕そうな表情とは裏腹にぎこちない動きをしながら恐神さん自身の過去で似たエピソードを持ってきては、
‘’ オレのなんか〇〇だったから、お前のなんてまだ可愛いしその傷が残っている顔でも十分綺麗だから安心しろ ‘’
などと言いながら、ひたすらちょっと下手くそな言い回しで励ましてくれる。
「ありがとうございます、恐神さん。」
「いや、別に...っていうか余りこういう言葉使って相手のこと慰めたり励ましたライスンの得意じゃなくてよ...言いたいこと伝わってりゃ良いんだけど、何だか悪いな...」
「いえ、嬉しかったです。有難うございます。それと...」
そう言って私の中でできる限りの可愛い表情で笑顔を向け、天邪鬼な私を押しつぶすようにして――
「先程言った事、撤回させて下さい。
...って言われても上手く伝わるわけなんて無いですよね。
探偵さん、改めてお願いします。
‘’私がこの世に未練なく成仏できるように、エスコートして下さい。‘’」
「やっと素直になったな、お前。
...ご依頼、承りました。」
恐神さんの返答に何処か安堵して眠気が襲ってくると一緒に、何故か私の脳内には家の隅に咲いている鈴蘭を思い出した。
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