八件目 無名の二人
*流血表現あり
「そういや、お岩も気になるけどよ、一旦城下町で情報収集しねぇと先の道筋とかこれからどうするとか何も立てられないよな...はぁ...」
「というか肝心な悠寿さんが真逆御姫様になって此方の時代に来たのもオレ的には仰天ニュースっすけど...」
賑やかな城下町で腰を休めるために団子屋により、そこで美味しそうに二人で団子を平らげながらお口直しに貰った茶をすする。ここの茶は、事務所の茶は少し味が違くて少し苦味があるな...。けど美味いからいいか。
「まぁな...でもさっき俺よ、‘’彼奴なら空きを見計らって脱走してくるだろう‘’っつったろ?けど、姫様だったら流石に難しいのかねぇ...」
「‘’姫‘’ってだけで何だかせわしないっすね...」
「...んま、死神だからな彼奴。そっち系の仕事でもけっこう忙しいと思うぜ。不憫だけどな。まぁそれだから本人的には日常茶飯事だから平気とかほざきそうな気がするけどよ。」
俺達脳筋二人にとって唯一の問題解決の緒になりそうな女が消え、二人してバカンスに来たのかと勘違いされてもおかしくないくらい、溶けたアイスのようにだらけている。
‘’探偵事務所やってんのに、何気に俺達こんなことやるの初めてだったしな。しょうがねぇか‘’ 、なんて言って吹っ切れたいものだがどうしたらいいのか考える為の知能でさえも、少し強くなってきた日差しに邪魔をされ全ての行動を遮られているような気がする。これこそとある芸人が言っていた、‘’なんて日だ‘’そのものだ。
「はぁ...そこら辺の角から出てこねぇかな...彼奴」
「また悠寿さんの事考えているんですか?」
そういって二人で怠け者のようにグダグダしながら、筋肉が無くなった人間のように皮膚が垂れたような表情で周囲を見渡しているときのことであった。
‘’ 何だこの凶暴な犬は!!こんなやつ、始末してやる!! ‘’
‘’ きゃぁああ!!なんでこんなところにまでゴキカブリがいるのよ!!こんなもの、こうよ!!!!!! ‘’
その場にいた、俺達以外の誰もが絶句する景色であった。
男に打たれた犬はまだ息はあるが目を背けたくなるくらい身体中酷く醜い姿となり、赤子を背負っていた女はその場に陥った際の心拍数がどんどん上がっていくような衝動でそのまま殺めてしまった。
‘’ 貴様ら!!よくも綱吉様が定めた【生類憐れみの令】を破ったな!!打首じゃ!! ‘’
「...なんか、此処も此処で物騒な世の中だな。」
「...あのわんちゃん、早く手当してあげないと......」
先程生き物に危害を加えた女と男二人は、俺達が目を背けている合間にいつの間にか綱吉とやらの所に連れて行かれたらしい。
「...大丈夫?傷、治してあげるからおいで。」
「...?え?悠寿?」
次から次へと、情報量が多く現代(?)から来た俺達には一切理解ができない。また、先程城の家来らしき複数の男に連れて行かれたはずの悠寿が今度は俺達の目の前に現れた。
「ボクはさっきの人みたいな事はしない。だから安心して?大丈夫だから。」
面倒事には関わらない。自分が巻き込まれるのは嫌だ。極力目立ちたくない。通常なら人間の本能的なもので誰も手出しをしたがらない場で1人、悠寿だけがその場に手を上げた。無論、俺とマイズミも前者の弱い人間、負け組だ。
*
この子はこれまでずっと他の人達にも同じ仕打ちを受けていたのかな。そう思ってしまうくらい、余りボクには近づこうとはしてくれない。けど、それも無理はないだろう。だってさっきまで、酷い仕打ちを受け全身の傷が見ていて痛々しい程なのだから。
「大丈夫。怖くないよ。あの人、怖かったよね。あなたは凄く辛い思いをしていたのに、助けてあげられなくてごめんね。直ぐ治してあげる、ッ...から、大丈夫だよ。」
一瞬の事であったが、人間の急所の一つである頭を思いっきり狙うようにま少々大きめの小石が呼んできた。だが、それでも彼女は犬に対して安心させるように微笑みながら声をかけ続けた。
‘’ 姫だからって周囲の好感度を取る為にやってんのやめろよw ‘’
‘’ そんなきったない犬、本当はお前も嫌なんじゃねぇの?w ‘’
犬に対して優しく寄り添うようにしている少女に数々の罵倒する言葉や、1人の人間を蹴落とすような声が聞こえてくる。でもそれでも彼女はめげずに。‘’ 貴方は私が守るから。大丈夫だからね。 ‘’と、歯を食いしばり赤を纏った犬に対してまた笑顔を向けた。
「おいお前達...そろそろ黙らねぇと―――」
さっきまで傍で様子を見続けていた恐神が立ち上がる。その刹那の事だった。
‘’ そんなヤツ、さっさと殺しちまえよ ‘’
その声が終わると主に、また先程の男女がいたときと同じ様な光景が目に入った。
「姫様に対して無礼な言葉使いは慎め、愚者が。」
先程まで彼女を罵倒し続けて快楽を得ていた全ての人間に、銀の刃が擦り抜けていった。恐らく、致死量と言えるほどの量が出てくるわけでは無いと思うが、そこそこの量は出ている。
‘’ くっそ...なんだ、おま、ぇ...ッ今度あった、ら...ッ覚えて、ろッ ‘’
そう言ってその場にいた、野次馬一同は台風のように去っていった。
「姫様、大丈夫ですか。...少々頭から垂れている血液も...奴らの仕業ですか。」
見るからに好青年の若い家来で、その強い正義感と爽やかな雰囲気はどの女の心を疼かせるような美貌であった。
「私はいいの。その前にこの子を...」
先程まで悠寿が守るようにしながらその場でできる応急処置を取ってもらっていた犬は、血も止まり悠寿に心を開いたのか悠寿にもたれかかるようにして、目を閉じ眠っていた。
「そうですね。...とりあえず、城に連れて帰って上げましょう。」
そういって、好青年は犬を優しく抱きかかえる悠寿の腰を支えるように立つと、俺達二人にこう告げた。
‘’ 【後始末】と【お岩】の事は任せた。...俺達も後々手伝いに向かう。それまで...耐えてくれ。 ‘’
「え?なんであいつお岩の件について知ってんの?え、悠寿がなんか話した?ん??まさか、マイズミお前?」
「いや、オレ違うんすけど。」
時は元禄時代。幕府は徳川綱吉。妖が集い、昼間はその姿を隠し夜になって本性をさらけ出しては人間に悪戯を仕掛けたり、人々を化かすなどが信じられていた。
「...んー、まぁなんかこんなずっと言ってっと警察とかがやってるような犯人探しみたいで気分悪いからよ、今は忘れてお岩について情報収集して彼奴の為にできることとか、この今の現状を解決させて、お岩が安心して成仏できるようにしてやろうぜ。」
「珍しく恐神先輩のくせに良いこと言いますね...【恐神先輩のくせに】ですよ、此処大事です。」
「あ!?何でオレのくせになんて言うんだよお前!オレが脳筋だっていうのかよ」
「え?w今更自覚したんですか?恥ずかss」
「おいふざけんなお前」
思いついたら即行動する活動的な男と、毒舌だが前者の男と違い先のことを考えながら行動する慎重な男の脳筋凸凹コンビの二人が初めて、素直にお互いの気持ちの赴くままに話せたような気がした。
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