九件目 秘密の関係

「只今姫様が戻ったぞ」


城に戻ると、私の隣にいる若い家来が周囲に響き渡る程の大きな声で呼びかける。


‘’ 姫様!!お帰りなさい、ま...って、どうされたんですかその怪我は!! ‘’


‘’ その犬は一体... ‘’


コイツが私の期間を知らせただけで、ゴキブリに反応する虫嫌いな現代人...ちょっと美化すると、自分の好きなアイドルや俳優、女優が近くにいて話しかけてくれたときのようなテンションで人間が群がるようにしてボクに近寄ってきた。


ボク、マンツーマンで話すのはまだ良いけど、複数の人間を1人で対応するのは正直苦手なんだよな〜...








たかが ‘’姫様‘’ 相手になんでこんなに大袈裟になってでも心配してくれるんだろうこの人達。正直ボクも一緒に家来の職の人達と刀振り回して戦ったり、誰かを守ったりしたいのに。


そんなこんなで話は進み、ボクが助けてきたわんちゃんは医師の所に連れて行かれて、ボクは先程からずっと一緒にいる若い家来と一緒に「上様」と呼ばれている男の所に向かった。



「おお、帰ってきたか。」


「上様、姫様の傷が...」


上様の顔を見るなり、‘’なるほど...こんな顔をしているのか。やはり現代の美化されたものより教科書に載っているときの容姿のほうが近い気がする。そして、顔で人言うのも何だが少し怖そう...‘’と思いながらじっと見つめていると、



「何?大丈夫なのか。何処をやられたんだ。余が姫の代わりに仇討ちを...」


「上様、姫様はご無事ですので大丈夫かと...」


「汝は黙っておれ、どれ姫よ真逆声が出せなくなるほどの大きな傷を...」

ボクが言うのもなんだけど、意外と過保護のような一面もありつい可愛く見えてきた。




「いえ、大丈夫です。...私のことは気にしないで下さい。」


「そうか...。でも傷が...」


先程までも少し強張った表情から壊れ物を扱うような悲しそうな表情に変わった。コロコロ表情変えてくれるから、正直ボクにとっては助かるけどお城の中で一番偉い人?なのに、大丈夫なのかな...


「頭に石をぶつけられただけで、軽症ですので本当に大丈夫です。手当なら自分でやれますから」


「なら余が姫様の手当を...」


そういって上様は心配そうに胸に手を当てて、目をうるうるさせて今にも泣き出しそうなあの黄色い物体のような表情で此方の顔色を窺うが、


「上様は色々とお忙しいことでしょう。俺が姫様の手当をしますから、どうぞご安心下さい。」


「汝まさかそれで余を油断させて、姫に手を出して...」


今度は顔が赤に変わった。


「俺は変な意味では手は出さないので大丈夫ですって...」


「何かあったら直ぐに頼らせていただきますので、大丈夫ですよ。」


そう言うと、無事安心したように上様は無色に変わった。



                *






「そろそろ作るのやめれば?」


若い家来に自室(仮)で手当されている途中、ふとした瞬間に声が漏れた。一瞬、ボクは何を言ってんだろう...と感じたが、何となく想像がついた。


「...作る―とは、何の事でしょう?」


手の動きは止めずに、微笑みながら柔らかい声で私に返答する。


そして、私の視界を塞ぐようにコイツの顔が視界に入ってくる。

黒い髪で耳が見える程度の短いショートカットが似合う血のような色の瞳が映える何処か懐かしい男だ。ボクと同じ容姿だからなのかな。また、何故かこの人と一緒にいると先程の上様と話したときと同じような感覚が走る。


「...じゃあ聞き方を変える。











何でお兄ちゃんが此処にいるわけ?」


それでも尚、コイツの表情が歪むことはなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る