第五章 石蒜通りの七不思議
七十三件目 怪異は彼女を悩ませる
「学校七不思議、と聞いたら何が思いつく?」
数週間振りに復帰した教室。放課後の勉強会と称して、オカルト好きの犬飼さんと過ごす最中、彼女にこんな事を問われた。
「学校七不思議?えぇと…動き出す理科室の人体模型とか?」
黒髪撫子姿に身を包む久田隼世(中身は悠寿)は、取り敢えず脳内に思い浮かんだ言葉を口に出すと、久田の言葉に目を輝かせる犬飼に手を掴まれる。
「そう!そうなの!久田さん、もしかして私と同じくオカルトが好きなの?ね、きっとそうよね!!」
「ん…?私の知り合いがオカルト好きだから。」
「ふむふむ、なるほどねぇ〜…。」
後退りしたくなる程の犬飼の熱気を受けながらも、優しげな笑みで縦に頷く。すると、一息深く吸うとやや声量のある犬飼は、自身の声を二人だけの静寂とした教室内に響き渡らせる。
「あ、そうだ!ねぇ久田さん、明日の夜に私と学校七不思議全部発掘オカルト探検に行きましょ!!」
𑁍 𑁍 𑁍
其の会話から数時間後、犬飼と分かれた悠寿は雅客のいる託児所へと向かった。
「あの時の犬飼さんの楽しそうな笑顔を見たら、断る理由も何もないよ〜…。」
「へー。」
眉を下げながら縋り付く悠寿を適当に促しながら子を宥める雅客。彼の片手にトイレットペーパーを握り締める小さな子供がおり、ころころと首が回っている。
「…む、一寸雅客!何でそんなに反応薄いの!!ボクの話は至って真剣だし、いざ霊が現れたとしたら…───。」
「現れたとしたら?別に何も怖い事はねーだろ。例外として馬鹿な幽霊もいるが、お前程怖い化け物はいねぇよ。安心してオカルト同窓会にでも行ってこい。」
「雅客なら何か合理的な最適解をくれると思ったのに〜…。ねぇ、雅客ぅ〜ボクの事養うつもりでさ、ちょ〜っとぐらいお手伝いしてよ?」
ぶつぶつと文句を垂れ乍ら、悠寿は懐から見覚えのあるアメジストの宝石が散りばめられた首飾りを取り出す。それを見るなり、雅客は大きな溜息をついた。
「ま?園児でも無い癖に調子乗んな。
てかお前、そんなもの三途に投げ捨てときゃ良かったろ。何でまだ未練たらしく持ち歩いてんだ。」
「之は飽くまで梅雨葵の持っていた大切なもの。郵便屋に届けてもらおうかなって。」
悠寿がにこりと笑うと、人間の顔じみた模様のある鳥が彼女の肩に綺麗に止まる。
「あ、早速来た。…これ、呉々も落とさない様に!…然して、必ず《此れの持ち主》の所へ届けてね。」
鳥はけけけけ、と笑いながら悠寿に荷物を預けられると、首をくるくると回しながら飛んでいった。其の一部始終を見ていた雅客は、ふと疑問に感じた事を口に出した。
「あの首飾りの持ち主っつったら、梅雨葵の野郎のところへ持っていくんじゃねぇのか?」
「ううん、残念だけど違うよ。」
悠寿は表情を見せずに返答すると、「それじゃあボクは用事があるから、頑張ってねぇ〜…園長先生♡」と述べてふわりと消えていった。
「相変わらず変な奴。…まぁ、それはそーとして…俺達は教室で折り紙でもすっか。」
雅客は抱き上げた子供をわしゃわしゃと撫で回した。また、八雲曰く其の日は珍しく笑顔の多い雅客の姿が見られたらしい。
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