二十六件目  処方箋は喫茶店

丁度時計の短い針が、三を指す頃。


’’久田 隼世’’という女子高生に擬態した死神と、迷える子羊...とは言えないが、社会問題という蟻地獄に拘束された不運な男二人が、洒落たジャズが鼓膜を癒やす知る人ぞ知る隠れスポットと呼ばれるカフェに来ていた。



「なんかココの店内暗くね?女子学生、お前はこういうところが好きなのか?」


未だに’’見ず知らずの関係であった女子高生’’としか感じていない恐神は、特に現在目の前で普段とは違う容姿に武装している知り合いに対して特に違和感を抱くこと無く、シャツに染み付いた珈琲のシミをすっかり忘れきったかのような表情で、目の前の’’女子高生’’に対して純粋無垢な興味を抱いている。


「んまぁそうね、原宿とか行って食べ歩きしたりインスタ映え狙ってゆめかわ系やおしゃかわ系なものに手を出すのも嫌いじゃないけどさ、こっちと比べると微妙って感じ〜〜」


「へぇ〜、最近の女子学生ってよくわかんないっすね...」


マイズミも彼女、いや女子学生に興味が湧いてきたのか、話に介入してくる。ちなみに二人共既に成人済みであるため、傍から見たらやましい者に勘違いされかねないと思うが、実際は彼女のほうがはるかに年上である。



「あ、きたきた〜〜

私この喫茶店のコレ大好きなんだよね、ただのナポリタンだけどそこら辺のとはまた違うこの昔ながらの味がたまらないの...」


初老の男性が香ばしいスパイスと煮詰められたトマト、それから味の染みたベーコンなど脳を直接刺激する凝縮された美味しい匂いが、三人の胃袋を空腹へと誘う。


「へぇ〜...たしかに俺もその気持ち少しわかるわ、昔ながらのナポリタンって美味いよな。でも俺はオムライスに対する気持ちは変わらず熱いけどな!!」


「なんか熱血的すぎて、この距離でも砂漠にいる気分になれる気がする。...海外行ったこと無いけど。」


女子高生の顔が少し緩くなる。



「恐神先輩はいっつもこんな感じなんで、秋から冬にかけての寒い時期は役に立ちますよ。」


「それはそれは...もはや湯たんぽ状態ですね。秋と冬は需要が増えそう。それと私冷え性なので、寒い時期は一家に一台感覚で置いておきたいです。」


マイズミの言葉に対して、金銭的かつ経済的利益を目的とした発想に瞬時に転換される女子高生の発言に、恐神の顔が玩具を買って貰えず駄々をこねる子供のようなしかめっ面に変わる。


「んだよそれ、なら夏はどうやりゃいいっていうんだよ。」


「うーん、夏は〜〜...」


之は後の話になるが、外面のみ成長しすぎた小さい子供の質問に対して、率直な意見を述べた相方の男の頬に少し先走った赤い秋が訪れたんだとか。


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