第四章 偽物に縋る高嶺の華

五十五件目 ヒロイン交代

*微 残酷描写あり


普段通りの探偵事務所。

いつもよりも何処か透き通った青空。

特にこれといって変哲なものはないが、一人の男の発言と小悪魔により状況が一変した。



「はぁ!!?お、お前、ゆ…悠寿?だよな、どうしたんだよその格好…。いつもの電球頭じゃねぇし、それにその顔についてる布!!普段はお前の顔見て、悪巧みしてる顔なのか、それとも純粋に楽しんでる顔なのかって事の判断材料にしてたのに、そんなン付けられたら何にも分からねぇじゃねぇか!!」


普段の何倍も大きな声で叫びだす恐神。それに感化されるように「恐神先輩、耳栓しててもうるさそうな声出さないでほしいっす。」と、少々怒り気味に反応するマイズミ。



「は?いや、だって見てみろよ。こんなの付けてたらオレらは色々と困るっつーか不安になるし、それと…まぁ、そりゃ心配にもだろうが。お、お前家でゆっくり休んでなくて良いのか?」


「ん〜、休まなくても大丈夫!あの後恐神が私の事を雅客の所に連れていってくれたお陰で、手当も重くならずに済んだし、普段通り仕事に参加できるぐらい見た目ほど問題は無いから気にしないで!!」


チュール越しに普段通りの悠寿らしい声が響いてくる。雅客は悠寿なりの優しい嘘に顔を顰めた。

だがまだ心配症が抜けない恐神は、無意識に悠寿の顔の部分に手を伸ばす。


「…まぁ、もし無理しようとしてたら、力づくでも良いから止めてくれりゃ大丈夫だろ。後は此奴の自己責任だ。…ほらさっさと次の仕事の話でもしろ。」


「…ん、あ〜〜次の仕事の話か?えっと〜…」


恐神はふと何かを思い出した様に、別室に走っていってしまった。しかし、そのお陰で悠寿の“今の顔“を見られずに済んだ為、二人は内心ほっとしていた。




「…と、次の仕事はこれ、だな。」


恐神はお岩に渡された資料も広げつつ、指先で文字を辿りながら、言葉も添えつつで内容を丁寧に説明していく。これは、今何方にも配慮したやり方なのだろう、とマイズミは自己解釈した。



「えぇと…“狐の嫁入り“についてだァ…?この依頼者ふざけてんじゃねぇのか?そんなのと妖怪が関わりある理由わけがねぇだろ。却下だ、却下。」


「確かに狐の嫁入りって天気の話でしかでしか聞いたこと無いような…。」


珍しく意見が合致した雅客とマイズミ。二人は、互いの話にうんうん、と首を縦に振っては自身の話をし始める事に夢中になっている。



「え〜?折角の依頼、断っちゃうんですかぁ?」


不意に何処からか悠寿によく似ている声が聞こえてきた気がした。限りなく"本物"に近い。だが、何処か違うような、言わば"声真似"といったところだろうか。

それぞれが辺りを見回すと、恐神の机に腰を下ろしている“豆電球頭“の方の悠寿がいた。しかし、本物との大きな違いは眼が真紅に染まっていることだ。


「えへへぇ♡そんな見つめられたら照れちゃいますよ〜♡♡」


普段の悠寿らしくない媚びる女の喋り方に、先程まで会話に夢中になっていたマイズミ達もあんぐりと口を開けたまま思考停止している。すると、軽やかにスキップしながら恐神に抱き着く。


「あれれぇ、真泉達もぉワタシの事好きになっちゃったの〜?でもザンネン!ワタシはもう、恐神のお嫁さんになるって決めてるから!」


一瞬だけ二人の影が重なった。



「それに恐神はぁ、悠寿と同じでこの依頼は断りたくないでしょ〜?」


悠寿と瓜二つの容姿をした女が二人。

ただ依頼の話をしていただけなのに、突如音もなく現れた“もう一人の悠寿“に困惑する社員達と悠寿。真紅の瞳を持った悠寿は、小悪魔じみた声を出しながら相変わらず恐神にべっとりとくっついている。



「え?あ、は??ゆ、悠寿が二人?ちょ、お前は離れろ。おい、オレの見解ではそっちの悠寿が…――」


「ん〜?そっちの“悠寿“?…あぁ、…ヒロイン交代♡今までお疲れ様♡♡」


唐突に現れた“悠寿“によって、指を鳴らす音と共にもう一人の悠寿が一瞬で消失した。話がトントン拍子で進んでいき、尚且つ二人の悠寿の存在に頭を抱える社員達。



「…あれ、頭痛くなっちゃったの〜?…じゃあ、君達も楽にしてあげる♡」






社員 達 の記憶 か ら “悠寿“ が    んだ

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