第31話 莢の炎
結局のところ、ルーチカの薬莢は同時に一つまでしか、世界には存在できないらしい。新たに別の薬莢を作りだしたい場合には、その前に、すでにあるものを使用せねばならないのだ。しかし、一発であったとしても、持っているだけで十分に護身用になりうる。したがって、コーザは氷結のギルドへと来る前に、ちゃんとニシーシに
(さっすが、チャールティン大先生。こんなにも早く、使うときが来たみたいだぜ)
氷結は小首をかしげながら、艶やかさよりも不気味さの勝る目つきで、コーザとニシーシとの二人を見つめた。この場をどうやって切り抜けるのかと、そのようにコーザに期待しているらしかった。
「チッ……ニシーシ。見せてやれ」
「わかり、ました」
ニシーシもこの短時間のうちに、氷結がどのような人物であるのかは、十分に理解したのだろう。楽しくない緊張によってこわばった顔のまま、ダンジョンの壁に向かって銃を撃つ。はたして、そこからは
パン。
予想だにしないスキルだ。一瞬、氷結は驚いたように目を丸くしたあと、麗しい高笑いをあげた。
「アッハはハハ! そうかい、そうかい! な~んだ、お前と同じスキルなのか。悪いねぇ。あたい、勘違いしちゃっていたよ」
「だから、お前には見せたくなかったんだ……」
「なるほどね、ダンジョンについてだけでなく、スキルに関しても、名実ともに坊やの師匠ってわけか。銃の使い方はまるでなっていないが……うん。でも、スキルの威力は坊やのほうが上なのかな。まあ、それも故郷へ戻るまでには、嫌でもものになるだろうさ」
だが、これでニシーシの対価は支払ったことになる。
「約束は守ったからな」
「ああ、もちろんさ。あたいを十分に楽しませてくれたよ。ワープゲートは好きに使いな。……おい、案内してやれ」
「うぃっす」
そばに控えていた人物に、氷結が顎で指示を出す。やたらと背の高い、ひょろひょろなギルメンだ。腕には氷結への忠誠を誓うためなのか、結晶を象った墨がいれられていた。おおかた、氷晶のつもりなのだろう。
ついて来いという顔の動きに促され、コーザたちはその後を追う。そうして、氷結の姿が見えなくなったあたりで、ギルメンはコーザに釘を刺した。
「コーザぁ……。テメエ、あんまし氷さんに、でかい態度を取っているんじゃねえぞ」
そんなことを言われても、コーザにしてみればどこ吹く風だ。氷結本人と比べてしまえば、その配下たちの強さは言うほどではない。無論、それでも自分なぞよりは格上であったが、この頃には、コーザもだいぶ目押しになれて来ていた。その実力も、互角とまでは言わないにせよ、一方的にやられるほどではない。
ゆえに、コーザは口笛の音を鳴らすかのようにして、お気楽に混ぜかえす。
「ふぅ~、
もっと言えば、氷結たちとは二度と会わない予定なのだ。多少の恨みはどうということもない。まさか、彼らが自分たちを追って、ワープゲートを潜ることなぞないのだから。
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