第41話 手がかり

 まず、マーマタロは首を横に振った。


「先に断っておくが、我は直接、ペルミテースを知っているわけではない。あくまでも、その知人に心当たりがあるだけだ」


 その一言に、コーザはやや落胆の色を隠せなかったが、冷静になって考えれば、いきなり見つかるというのは、いささか期待のしすぎであろう。おそらくは妖精王からの依頼によって、すでに多くの人間が、探していると思わしき者なのだ。そうであるにもかかわらず、こうして心当たりのある人物にまで、無事にたどり着けたのだから、まずはそのことを喜んだほうがよいのだろう。


「その知人っていうのは何者だ?」

「名をゲゾールと言う。本人の口ぶりからするに、ペルミテースのことを、深く知っている仲のようであったが……ゲゾールは確かに、友ではないと話していた」

「話していた?」


 言葉づかいに引っかかりを覚え、オウム返しのようにコーザが問えば、やおらマーマタロは首肯した。


「ああ。ゲゾールと我とは見知った間柄・・・・・・よ。場所をたがえていなければ、今もタオンシャーネのセーフティにいるはずだ。たしか、その辺りから来る仲介人もあったと、我は記憶している」

「なっ!」


 それはつまり、目と鼻の先にまで、自分はすでに近づいたということではないか。思わぬ収穫に、コーザは笑みがこぼれるのを、自分でも止められなかった。


「向かうならば急ぐといい。ゲゾールはもうかなりの老齢・・だ」


 ありえない。

 それは耳を疑う発言だった。

 ダンジョンはその住人たちに労働を強いる。ゆえに、地上から捨てられるか、あるいは仕方なく、自発的にくだって来る場合であっても、それらは若い人間に限られるのだ。少なくとも年老いた人間が、素人の状態で生き延びられるほど、ここは生易しい環境でない。

 そうだとすれば、そのゲゾールは古くからダンジョンで暮らし、着実に老いていった、ということにほかならないのだが、その年数にまで思いを馳せれば、にわかには信じられない内容であることが、おのずと明らかとなろう。この不可思議な建造物が、いったいいつからあるのかは不明だが、脱出不能になったのは、せいぜいが二十年ほど前の出来事なのだ。

 よって、マーマタロの発言は、端的に次のように言い換えられる。

 ゲゾールは、ダンジョンに異常が起きた当初から、存在している人間である、と。

 そのことに気がついたコーザは、息を呑むことも止められないまま、緊張した面持ちではっきりと尋ねた。


「ゲゾールは――いや、あんたは……どうやってそいつと知りあった?」

「さてな。我が自発的に何かをしたわけではない。十五年ほど前だったか、やつの懺悔をたまたま聞いたのが我だった。それだけのこと」

「懺悔……だと?」


 一体全体、何がどうなっていると言うのだ?

 次から次へと出て来る、困惑を禁じえない話の連続に、コーザは頭の整理が追いつかなくなり、手でこめかみを軽く押さえていた。


「さよう。しかるに、その懺悔を聞いた我は、ほかの妖精よりも、格段にダンジョンというものに詳しくなり、今ではこうして、セーフティの長という立場にある。ペルミテースの話を聞いたのも、そのときよ。ゲゾールが曰く、『ダンジョンが、なぜ人を閉じこめるようになったのか、その理由を知る者である』、と」


 衝撃が走った。

 今まで、ペルミテースの捜索は、出口を探すついでであった。ほんのお遊びの気持ちであったのだ。だというのに、これはどういうことなのだろうか。

 思いもよらぬ内容に、コーザはしきりに天を仰ぐのだった。

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