第40話 マーマタロは妖精の名前だったのか。
「それで……長ってやつは、どいつだ?」
単刀直入に話を切りだしたコーザに対し、ニシーシたちが呆れ顔をしなかった理由は、思いのほか単純なものである。もうずいぶんと長らく、コーザらと一緒に生活して来ていたので、無作法なやり方にも慣れはじめていたのだ。
「マーマタロでしたら、祭壇の上にいる方です」
イトロミカールのセーフティを、守護しているとされる妖精である。その言にたがわず、有するスキルは攻撃系であったが、あいにくと相棒は見つかっていない。
妖精がセーフティの長というのも、コーザからすれば、だいぶんぎょっとする話であったが、住人の全員が瞳を持っているという、でたらめなイトロミカールに限って言えば、それも無理のないものであろう。
(そういや以前、ニシーシが自己紹介の際に言っていたな……。イトロミカールのマーマタロのニシーシって。このマーマタロという名前は妖精だったのか。なるほどな……。おおかた、マーマタロが認めた、イトロミカールのニシーシっていう具合だろう)
「そうかい。じゃあ、ちょっくら挨拶でもして来るかね」
「ダメですよ、コーザさん。いきなり、長には話しかけないのがマナーだって、僕も最近チャールティンから教わりました。だよね、チャールティン?」
ほかのセーフティを訪れること、それ自体が異常なケースだ。ゆえに、多少の無礼は問題にならないだろうと、そう反駁しようとしたコーザであったが、ニシーシのことを思いなおして踏みとどまる。自分の連れて来た人間が、どうしようもない者であったらば、ニシーシの顔を潰してしまうことだろう。
そのように気遣ったコーザであったが、あいにくと向こうの相棒は容赦しない。
「ええ。ですが、礼儀をコーザに求めるのは無駄ですの」
「おい、コラ」
自分だって礼儀の一つや二つくらいは、ちゃんと弁えているはずだ。……だが、これまでの行動をおもむろに振り返れば、悔しいが、ひょっとすると、チャールティンの言うとおりやもしれない。決まりの悪くなったコーザは、いつものように手を後頭部へと向け、反射的に伸ばそうとしたが、ちょうどそこに相棒からの視線を感じたため、慌てて腕を引っこめた。
「そのうち禿げそうだな!」
ルーチカの言葉を無視して歩きだせば、ニシーシが祭壇のそばに控えていた人物に、小声で話しかけていた。
「この方が、マーマタロに話があると……」
失踪中だったニシーシが戻って来たのだ。それだけで大体の事情は察したのだろう。警固の者はうなずくだけで、何も言わずにマーマタロに取り次いでいく。しばらくのち、祈りが一休みしたときを見計らって、祭壇の上にいた妖精が、四人組の前へと静かに舞いおりた。
黄色い妖精だ。
装飾が華美というわけではないが、物々しい雰囲気をまとっている。長という肩書は決してミスマッチなぞでなく、その立ち居ふるまいからは、この者しかいないという気迫さえ感じられた。
向けられた視線を感じ、コーザがペルミテースの名前を言えば、一瞬の驚きを経てから、マーマタロはゆっくりと静かにうなずいた。
「なるほど……久しく聞いていない名だ。この様子であれば、ニシーシがずいぶんと、汝の世話になったのだとわかる。……よかろう。特別に話してやる。ついて参れ」
気を遣ったのだろう。ニシーシらが共に来ることはなかった。
先導された場所は、セーフティの隅に設けられた、一軒の小屋である。それは人が住むためのものではない。マーマタロのために、特別に建てられたものであり、材質はイトロミカールらしく純石であった。建具がなく、戸が開きっぱなしになっているのも、使う者の性質を考えれば当然だろう。妖精には、扉を開け閉めすることなぞできないからだ。
人間のために置かれた椅子に気がつき、コーザがゆっくりと腰をおろせば、それを見計らったように、マーマタロが口を開きはじめていた。
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