第42話 セーフティには長居ができないお約束。
正規の出口を探すことに比べれば、その優先度はやはりだいぶ下だが、それでもペルミテースが自分にとっても、重要な人物であるのは確からしい。
コーザが礼を言って立ちあがれば、はたと思いついたように、マーマタロが話をつづける。
「待て……少し思い出したぞ。嘘か真かは定かでないが、くだんのペルミテースが、ダンジョンの真相を知っている訳は、現状を作りだした本人にほかならないから、とのことだ。ゲゾールからは忘れてくれと頼まれていたが……間違いない。そう聞いた」
憤怒のような激情がコーザの胸を貫いたが、それも一瞬のことで、やがては冷たい不快感へと変わっていく。その感情に身を委ねたまま、コーザは静かに吐き捨てる。
「……それが真実なら最悪の情報だ。うちが会ったとたんに、そいつを殺しちまうかもしれないからな。な~に、うちも出口を見つけるまでは害さねえよ。妖精王も探しているようだしな……。だが、腕の一本くらいは覚悟してもらうぜ」
言葉を止めようとすればするほどに、胸に溜まった不快感は、再び激しい怒りへと変化していく。そうして、コーザはルーチカの制止も意に介さず、思いの限りにマーマタロに悲しみをぶつけた。
「うちだけじゃない! いったい何人の人間が、こんなクソッタレの世界に閉じこめられ、犠牲になっていると思っているんだ!」
声を荒らげるコーザに対し、マーマタロは黙ってうなずくだけだったが、対するルーチカは、冷ややかな視線を無遠慮に送った。
それを自分たちに言うのかと、そのような蔑みを多分に含んだ視線である。
およそ一生を地下でおえる点については、妖精も人間も変わらない。だが、かろうじて生まれを選べるかどうかでは、その差は顕著だ。よくもわからない理由で地下より生まれ、そうしてダンジョンに囚われたまま、妖精は生涯を閉ざす。それに比べれば、コーザはだいぶマシではないのかと、ルーチカの目線は、相棒を痛烈に非難するものであった。
「やめよ……我は気にしていない」
ルーチカが口を開きそうになるのを察して、マーマタロがにわかに制止すれば、コーザも理由は異なるが、自分の非礼には気がついたらしい。
「あたって悪かった。……教えてくれたことには感謝している」
「ふん。まあ、好きにせい。ゲゾールに、『マーマタロがよろしく』と言っておいてくれ」
「はいよ。そのくらいはしてやるさ」
形式的な謝罪の言葉を述べ、憮然と小屋から退出すると、そこにはニシーシたちの姿が見えた。おおかた、コーザの怒鳴り声を聞き、急いで駆けつけたのだろう。
首を横に振り、大丈夫だということを言外に伝えれば、それを見計らったように、ルーチカがコーザに尋ねて来る。
「相棒。一応、確認なんだが……ニシーシについては、こうして無事に送り届けられた。それなのに、まだペルミテースの捜索をつづけるんだな? 出口じゃなくて」
「あ……? ああ。もうすぐ待ち人に会えるっていうのに、ここで約束をたがえるってのは、ふつうに人としてダメだろう。妖精王だって楽しみにしているんだぜ?」
「そうかもな。だが、あんな約束、俺様たちにとってはどうでもいいことだろ? それでもやるんだな」
「ふざけんな、大事な約束だろうが」
「ああ……そうだな。俺様も約束を守ること自体は、確かに大事だと思うぜ。そのほうが俺様としても都合がいいしな。これ以上は詮索しねえよ」
だが、別にコーザと妖精王とは、何か個人的な関りがあるわけではない。それでも頑なに約束を守ろうとするコーザに、ルーチカはそら恐ろしい違和感と、好奇心にも似た不安とを、覚えざるをえなかったのである。
「だが、長旅でうちも少し疲れた。タオンシャーネに向かうにしても、該当の仲介人をここで待たにゃならん。ちょっとは休息を取っても、バチはあたらねえだろうさ」
「何を言っているんだ、相棒。お前はセーフティに長居できねえ。そういうふうに、あの方と約束を交わしただろ?」
「なん……だと?」
驚きのあまり、コーザは目を見開いた。
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