第43話 重なる

 セーフティに長時間の滞在ができない。

 約束と呼ぶからには、妖精の瞳をもらい受ける際に、交換条件として示されていたのだろう。自分はあまりよく覚えていないが、ルーチカがそう言うのだから間違いない。

 だが、そのようなことができるのか?

 セーフティはダンジョンの基盤だ。それが意味するものは、妖精のスキルでは太刀打ちできない、世界が固有に持っている現象、ということである。そんなものに対し、妖精王が簡単に干渉できるのだとしたら、それこそ、ダンジョンを統べる支配者でなければ、ありえないではないか。


「――ッ!」


 なれば、おそらく妖精王は、ダンジョンのすべてを把握している。文字どおりのすべてだ。コーザの探している正規の出口でさえ、当然に知っていることだろう。

 なんということだ。

 妖精王に接触することが、この世界から脱出することだったとは。

 おそらく――いや、十中八九、妖精王のもとへたどり着くためには、ペルミテースを見つけなければなるまい。現に、コーザは妖精王から、待ち人をどこへ連れて行けばよいのかという、場所に関する話を聞かされていないからだ。

 これは、再びコーラリネットに戻り、初めて妖精王と邂逅したところへと、向かうことによって解決するかもしれないが、そうではないだろう。片道切符のワープゲートがある以上、いくらなんでもそれは現実的でないからだ。だとすれば、妖精王の位置については、ペルミテースが知っているのだと考えられる。

 なんということだろう!

 ここに来て、コーザの夢とペルミテースの捜索とは、その実体が合致するのである。

 おそらくは、ペルミテースが自発的に、妖精王のもとへと向かわない理由も、ニシーシと同じであろう。すなわち、生産系のスキルゆえに動けないのだと、そう考えるのが自然だ。それならば、今までとすることは何ら変わらない。現に、ニシーシを庇いながら、コーラリネットからここまで来られたのだ。その延長だと思えば、自分にできないはずがない。


「コーザさん。少ないですが、お礼です」


 そう言ってニシーシが差し出して来たのは、いくばくかの食料であった。簡素な礼を述べながら、コーザがナップザックへとしまっていけば、チャールティンが横からそれを茶化していく。


「よくもまあ、そんなに入りますこと」

「なんだあ? みんな、同じのを持っているだろう」

「ふつう、二か月ぶんの糧食なんていれられませんの。せいぜいが十四日ですわ」


 どうして、チャールティンがそんなことを知っているのか。ダンジョンに不慣れなはずでなかったのかと、そのように不思議がったコーザではあったが、ほどなくして疑問は氷解する。ニシーシが口を挟んだからだ。


「僕はチャールティンと違って、具体的な日数までは計算できませんが、仲介人がイトロミカールに運んで来る、ナップザックの量は結構な数ですので、たくさん詰められないという話は、本当のことだと思いますよ」

「へえ~。図らずも、うちの持っているこいつは、当たりだったわけか」

「と言うよりも、コーザのだけが本物で、残りは、その模造品と考えたほうが自然なくらい、性能に差がありすぎますの」

「……。相変わらず、うちに対しては嫌な言い方をするんだな」

「強くあたってしまうのは、寂しさの裏返しです。チャールティンも本当は僕と一緒で、コーザさんにイトロミカールから、出ていってほしくないんですよ」

「そんなわけないでしょう、ニシーシ。さっさと、わたくしの前から消えるといいですの」

「そうかい。ちょうどよかった。うちもすぐに出発するつもりでいるさ」


 コーザは肩をすくませながら笑みをこぼした。

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