第36話 本当にうちは一人で倒したのか?

 まさか、熱に耐えられなかった、というわけでもないだのだろうが、戦闘の終了とともに、純石じゅんせきの壁は音もなく崩れ去った。

 その隙間を縫うようにして、一体の巡回車がコーザへと迫る。


(しまっ――)


 倒しそこねたモンスターがいるなんて、完全なる想定外である。

 もはや、スキルの残数はない。

 モンスターを相手に、肉弾戦がどこまで通じるかはわからないが、そうするよりほかにはないだろう。

 片腕の犠牲を覚悟し、左手を盾として前に出しながら、コーザは右の拳をかためた。

 飛びかかられる刹那、軽やかな銃声が耳を刺激する。

 ぱん。

 それがニシーシの発した、火の弾ショットであることに気がついたときには、すでに巡回車は地に伏していた。

 嫌な脂汗を垂らしながら、コーザはゆっくりと後ろを振り返る。


(……そうか、ニシーシに渡した莢の炎カートリッジは、ルーチカのスキルを必要としない。うちのスキルストックにかかわらず、莢の炎カートリッジは放てるのか)


 ということは、火の弾ショットに限って見れば、コーザは六回ものスキルを、撃発させられることになる。この仕掛けを知らない者が、仮に、コーザと対人戦をする・・・・・・・・・・ことになったとすれば、それは致命的なミスを犯したのに等しい。


「すまん、助かった」


 ニシーシに礼を言うと、コーザたちは純石じゅんせきの山を越えた。大量の物資が散らかっているが、すべてを回収することはできない。再びの事態に備え、せいぜいが非常用の純石じゅんせきのみだ。

 それらを見回しながら、コーザは漠然とした不安を覚えていた。本当にこれらの持ち主は、すべて自分によって倒されたのだろうか。

 無論、ルーチカの火炎放射ファイアは高い威力を誇る。

 しかしながら、敵の数もすさまじかった。個体が増えれば増えるほどに、与えられるダメージもおのずと少なくなる。そうだと言うのに、あれほどのモンスターを、本当に自力で倒せたのだろうか。

 はたと思いついて、コーザは走りだす。目的地は、ここにはじめて飛ばされた地点――すなわち、ワープゲートの出口である。


「……」


 だが、そこには期待したどおりの、何かがあるわけではなかった。


(尾行されていたわけじゃないのか……。うちの思い違いで、ルーチカの攻撃は、想像よりもかなり高かったってことね)


 そもそも追跡される覚えもないのだ。やはり考えすぎなのだろう。

 訝しげな表情をするニシーシに対し、コーザは頭を横に振り、何でもないという旨を言外に伝えた。そうして、コーザが今一度、大道に向きなおったとき、またもや驚きが襲って来たのである。


「通路が……開いているだと?」

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