第37話 おぼろげな記憶

 コーザのとんちんかんな発言を、チャールティンは呆れながら聞いていた。


「まったく、何を言っているんですの?」

「いや、だから道が――」


 あのとき、機械の集団と出会った際に見た景色は、確かに奥のほうが壁であった。この場所は、全部が行き止まりだったはずなのである。

 これさえも自分の勘違いだというのか。


「……。わたくしは敵を数えるのに必死でしたので、そんなところまでは注視していませんの。コーザが言うように、本当に壁だったのだとしたら、二重にじゅうマップによって、切り替わったというだけのことですわ」


 それは考えられる道理の一つだったが、はたして、ダンジョンの仕掛けが、自分たちに利することなぞあるのか。なおも、いまひとつ腑に落ちないコーザであったが、チャールティンがそう言うのであれば、間違いはあるまい。やがては気に留めないように努め、全員が揃って歩きだす。

 先に進むと、進路は二つに分岐した。


「これまでと一緒だな、相棒。俺様たちで探索し、ニシーシたちはこの場で待機だ」

「ああ。だが、今回はルーチカが弾切れだ。先にみんなで、そっちにある無人のセーフティで休もう」


 ありえない発言にルーチカが困惑する。幾度もの懲りない主張に、すでにチャールティンは頭を抱えていた。


「おいおい、おいおい! 相棒。俺様たちは初めてここに来たんだぜ? なんで、そんなことが相棒にわかるんだよ」

「ちょっと、しっかりしてくださいまし」

「……やっぱり、モンスターを食べちゃったのが、まずかったんじゃないでしょうか?」


 まさに四面楚歌だ。

 状況だけで考えるならば、反論の余地なく、コーザの気が狂っただけだろう。だが、確かにコーザの頭には、セーフティについての記憶が、まざまざとよみがえって来るのだ。


「そうだよな……うちが、知っているはずないよな」


 コーザ自身でさえ、己がどうなってしまったのかがわからず、変な焦燥感だけが体中をかけ巡った。不合理な考えのもと、むしろ自分の予想が外れてほしいとまで、ひそかに願いながら急ぎ足で向かえば、はたしてそこには、青白く光るエリアが存在したのである。人が住んでいないという部分まで、コーザが指摘したとおりであった。


「お手柄ですね、コーザさん!」


 ニシーシが気を遣って明るくふるまうが、とてもそんな茶番につきあえるような、心理状態ではない。


「存外、モンスターの記憶を取りいれることに、成功したんじゃありませんの?」


 相変わらずの毒づきが、却って今のコーザにはありがたかった。

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