第38話 どうやら見覚えのある景色になったようだぜ。

 つかの間、休息を取ったのち、コーザたちはまた歩きだした。やがて現れたワープゲートを通り抜ければ、ニシーシの記憶にある風景にも、いよいよ近づいたようで、自然と感嘆の声をあげていた。


「やりましたよ、コーザさん! 当たりです!」


 待てないと言わんばかりに、軽やかに走りだすニシーシの背中を、慌ててチャールティンが追いかければ、釣られるように、コーザとルーチカも駆け足になる。

 通路にまで漏れ出ている、青白くて優しい光を目にすると、さしものコーザも、たどり着いたのだという実感を、覚えずにはいられず、ニシーシの声に隠れるようにしながらも、恥ずかしげもなく喜びを噛みしめていた。


「……。ニシーシっ!」


 突然の来訪者に困惑していた住人たちも、それが失踪した本人であることがわかれば、にわかに駆けだして、ニシーシの体を力強く抱き寄せる。


「よく……よく、無事だった」


 その言葉で、ニシーシもこれまでの出来事を、自然と思い出したのだろう。じわりと溢れる涙を止めることができず、抱き寄せられた恰好のままに顔を歪め、服に鼻をこすりつけていた。


「しかし、どうやって?」


 当然の疑問である。

 それに答えるべく、ニシーシは、涙を拭ってコーザのほうへと手を向けた。その顔に恥じらいの色が見えないあたり、自分の感情を表現することには、あまり抵抗がないようだ。


「コーザさんが……えっと、こちらの方が僕を送ってくれました」


 まばらになされる会釈の群れに、コーザも軽く手をあげながら首を引っこめる。まるで歓迎の宴でも開かれそうなムードだが、あいにくとコーザは、そのような派手なイベントを好まない。人の輪へと連れこまれそうになるやいなや、大慌てでコーザはニシーシに目配せをした。


「そうでした、コーザさんはマーマタロに用があるんです」

「ほう、長にか?」

「ええ」


 このぶんだと、ニシーシを送り届けた謝礼という体裁で、ペルミテースの話を聞いたほうが、スムーズに事は運びそうだ。それに気がつくと、コーザは少しだけ顔色を改め、近寄りがたい雰囲気を醸しだす。しかしながら、ニシーシと十分に打ち解けているのは、だれの目からもすでに明らかである。ゆえに、今更そんな小手先の知恵を絞ろうとも、やや手遅れな感じは否めなかったのだが、そこを無遠慮に指摘してしまうのは、コーザの名誉を深く傷つける。いささか野暮というものだ。

 無論、そのような気遣いを、相棒たるルーチカがするわけもないので、即座に揶揄され、滑稽な道化となったのは言うまでもない。


「バカだな、相棒。ニシーシは責任感もつええんだ。全部を任せりゃ、うまくいくだろうに」


 ……それもそうだ。

 自分が話をつけるよりも、ある程度までは、ニシーシに誘導してもらったほうがよい。決まりが悪くなったコーザは、もはや癖のように、後頭部を無造作にかきむしるほかなかった。

 ほどなくして、その目に見えて来たのは祭壇である、いや、それに向かって、熱心に祈りを捧げている集団と、そう表現したほうが正確だったかもしれない。

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