第35話 生産系のスキル

「いったい、どうす――」

「時間がありませんの。コーザ、ニシーシ。今あるすべての純石じゅんせきを出しなさい!」


 何を言っているのだ。純石じゅんせきは壁もモンスターも傷つけない。そんなもので攻撃することは不可能だ。

 そう思いはするものの、自分に何か妙案があるわけでもない。コーザは言われたとおり、持てるすべての純石じゅんせきを取り出していた。


「少ない……。ですが、やってみる価値はありますの」


 そうして、チャールティンは、ニシーシに拳銃の使用を促す。いったい、何がはじまるのかと思って見ていれば、それはすぐに完成した。

 壁である。

 純石じゅんせきによって作られた壁が、ダンジョンの通路を塞ぐようにして、大した隙間もなく現れたのだ。左右に見える小さい穴は狭間であろうか、ちょうどコーザの拳銃を、差しこめるような具合になっていた。


「どれだけの間、持たせられるかは不明ですの。……わたくしにできるのは、これまでですわ」


 だが、問題はないと、ルーチカは不敵に笑う。


「俺様の火炎放射ファイアなら瞬殺だろ」


 たしかに、ルーチカの火炎放射ファイアは、スキル全体で見ても中々の威力だ。リーチの短さが欠点だが、それも籠城するかのようにして戦う、今の状況に照らせば、些細な問題にすぎないだろう。

 しかし、それらは敵の状態がわかっていてこそ、はじめて大きな意味をなすものだ。純石じゅんせきで作った壁の、どこにモンスターが群がっているのか、もっと言えば外の状態がわからない以上、効果的な方法とは呼べないのではないか。

 そんなコーザの疑問も、チャールティンが指をクロスして見せたので、ほどなくして解消された。


(左右から斜め前方にスキルを放つのか……!)


 さすれば、敵の位置が正確にわからずとも、純石じゅんせきに肉薄するモンスターたちは、問答無用で始末できよう。

 とっさに、ここまでの判断ができるものなのかと、コーザは驚愕を禁じえない。


「ルーチカ!」

「あいよ、相棒」


 ここまでおぜん立てされたのだ。やれないなぞとは言っていられない。

 残りのストックは四発。

 それらをすべて火炎放射ファイアに変える。

 ただちに狭間へと拳銃を差しこみ、トリガーを思いきり引く。

 ぼうぼう。

 見えこそしないものの、熱気が壁の隙間から肌へと、じりじりと伝わって来た。

 遅れてあがる機械たちの悲鳴。

 それにかまわず、素早く移動して反対側の狭間を目指す。

 みしり。

 狂ったようにモンスターは暴れだし、両者を隔てる純石じゅんせきが、にわかに嫌な音を奏ではじめた。

 想像以上の荷重は、チャールティンにも不安を覚えさせたようで、ニシーシの名を呼ぶと、急いで追加のスキルを使いだす。おおかた、形状を上書きし、無理やり元の状態を保とうと言うのだろう。

 再びの火炎放射ファイア

 もはや、左右を行き来する余裕はない。


「うぉおおお!」


 咆哮とともに、残りのスキルすべてを獄炎に化けさせた。

 はたして、火の勢いが弱まったとき、外の音はやんでいた。

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