第34話 ……いつかはこうなると思っていたよ。

 行き止まり。

 いや、よく見ればL字型の通路だ。左に曲がれる場所がある。そっちのほうが道が広いようで、ずいぶんと開放感を覚える。

 緊張を少しずつ緩めるように、ゆっくりと息を吐きながら、コーザはニシーシの腕から手を離した。跡が残ってしまうほどに強く、力をこめていたことに気がついたコーザは、慌てて謝罪の言葉を口にする。ニシーシも手をさすってこそいるものの、その顔に憤りの表情は見られない。


「仕方ないですよ。僕も不安であることは違いありませんから。……まあ、コーザさんがいるので、僕のほうは、そこまで心配してはいないんですけどね」


 うれしいことを言ってくれる。コーザもようやく口角をあげると、新たな景色を見るべく通路を曲がった。

 だが、希望の光は差しこまない。

 見えたのは、モンスターの大群であった。大小様々なモンスターがこれでもかと、デパートのように集まっていただけである。


「クソが――」


 引き返すことはできない。そっちは壁にぶつかるだけだ。

 ならば、少し先に見える、路地のような場所に賭けるほかない。


「走るぞ!」


 コーザは今一度ニシーシの手を握ると、モンスターたちに気がつかれるよりも早く、直感的に行動していた。遅れて、彼らもコーザたちの存在を認める。

 威嚇なのか悲鳴なのか、まるでわからない何かが、桁違いの大音量で響いて来る。いったい、どれだけのモンスターが密集すれば、こんなことになると言うのか。

 駆けぬけるコーザは、右に折れ、もう一度曲がり、そしてついには絶望した。「コ」の字になっていた通路の先は、行き止まりだったからである。この地に飛んだ時点で、モンスターの集団とは、どう転んでも対峙せねばならなかったのだ。


「最悪だ……なぜ、こうなる?」

「何を言ってやがんだ、相棒。お前は昔から、やたらとモンスターに襲われやすかった・・・・・・・・・・・・・・さ」


 いや、そういう次元の話ではない。あの数を相手にすることは、自分にはできない。それはすなわち、この地に骨をうずめるよりほかに、術がないことを意味していた。


「……すまねえ。ニシーシ」


 謝ったところでどうにかなるわけでもないが、そうせざるをえなかった。どうせ死ぬのであれば、少しでも罪悪感を抱かずに滅びたい。

 コーザが肩をがっくりと落としている間にも、モンスターたちの足音は、すさまじい速さで近づいて来る。ニシーシも状況を察しているのだろう。小さく、口元を手で覆っていた。

 だが、この者だけは違う。


「あきらめるのは、まだ少し早いですの」


 チャールティンはしきりに壁を見つめながら、そう言った。いったい、このピンチをどうやって切り抜けると言うのか。そんな方法が本当にあるのか。

 コーザは英雄を仰ぎ見るかのように、次の言葉を待った。

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