第72話 ……ムッチョーダ側のワープゲートに行くぞ。

 今のモンスターはどういう存在なのかと、コーザは疑問の言葉を口にする。対する氷結の返事は、修理霊ドミネーターに対する一様の回答であった。そこに自身の思い出は含まれていない。無論、格納の能力については、その真実を知る者が皆無であるため、機械の召呼という点だけは誤解である。


「Sランク……なのか?」

「アッハはハハ、うれしいねぇ。コーザにはあたいが、最上級を倒せるように見えるのかい。だが、あいにくと、やつはAランク止まりさ。モンスターを招く以外には能がないよ。……ああ、そう言えば一つだけあったか。一時的に、ダンジョンを拡張することができたっけね。まあ、これを使ってお前が移動するなんぞ、土台無理な話さ。期待するんじゃないよ」


 頭が真っ白になった。

 あのとき自分が見た光景は正しかったのだ。機械の集団――その奥にあったのは、やはり壁だったに違いない。それを修理霊ドミネーターが、臨時で開いたにすぎなかったのである。当然、今となっては、あるべき姿に戻っていることだろう。何者をも拒絶する、行き止まりに変わっているはずなのだ。


(同じことがもう一度できるのか……?)


 いいや、無理だろう。

 あそこまで修理霊ドミネーターを連れて行くことも、現場に偶然やって来るのをずっと待つのも、自分には不可能だ。これでは氷結のほうからは向かえない。どこかで別のワープゲートを見つけ、そちらに飛びこまなければならなくなる。

 ならば、どうせ行き先のわからない渦を、使う必要があると言うのであれば、自分は己の直感を信じたい。

 ムッチョーダ側のワープゲートを潜るのだ。


(無人のセーフティにつながる渦は必ずある)


 それがムッチョーダにある保証はないが、同様に違うと言いきることもまたできない。


「グララムース。あんたならこっちのワープゲートについても、場所を知っているんだよな?」

「ああ、もちろん……本気か?」


 みなまで言わずとも、コーザがやろうとすることを察したのだろう。咎めるように尋ねて来る。


「事情が変わった。氷結、うちはお前を十分に楽しませたはずだ。このうえさらに、対価を払えだなんては言わねえよな? 旧ムッチョーダについても、氷結の所有物に変わったってんなら、遠慮せず、二つめのワープゲートを潜らせてもらうぜ」


 目を丸くしながらも、氷結は悠然と首肯する。氷結の驚く顔なぞ、コーザは初めて見たような気がした。

 やがて現れる赤黒い仕掛け。

 意を決して、そこへと踏みだせば、はたせるかな。視界には青白い光が溢れていた。

 引き当てたのである。無人のセーフティにつながる、おそらくは唯一であろうワープゲートを。

 いつか、ニシーシに冗談で語った笑い話は、かくして現実のものとなった。


「やったぜ、ちくしょう! ざまあみろ!」


 だれに言うわけでもなく、高ぶったままにコーザは叫ぶ。大声を発していなければ、ばくばくと脈打つ心臓の鼓動を、とてもではないが抑えられそうになかったのだ。

 興奮冷めやらぬ状態で、コーザは着地点を振り返った。

 今、ここでミージヒトを迎え撃つべきなのか?

 にわかに、そんな疑問が頭の中を埋め尽くした。

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