第76話 仲介人が到着したみたいだぜ。
コーザは順調だ。
不慮の事故も多かったが、それでも確実にペルミテースへ近づいている。この点は氷結も言いあてることができていた。ならば、ひょっとするとミージヒトについても、同じことが言えるのではないか。ペルミテースに会うまでは、全くもって安泰であるという推測も、いささか楽天的であったと、考えを改めるべきなのかもしれない。
(コーラリネットでニシーシと話した内容は、マーマタロなら待ち人を知っているというもの……。こうして当然のように、イトロミカールに戻って来ている以上、はたから見ても、捜索に進展があったことは丸わかりだろう)
すると、これはもはや、ゲゾールに接触するのはどちらが先なのかと、そういう争いの様相を、呈しているのではあるまいか? もしも、タオンシャーネの道中で、ミージヒトが襲って来るのであれば、戦闘に参加しないと表明している、チャールティンなどの協力者を、わざわざ無茶をしてまで、危険な場所に連れて行くこともないだろう。そのあとで、自分にはイトロミカールに戻るという、選択肢もあるのだ。無論、ミージヒトを、無事に一人で倒すことが大前提となるが、成功すれば、以降の旅は格段に難易度がさがる。さすれば、タオンシャーネまでというマーマタロの制限も、にわかに意味を失い、再びニシーシたちを仲間として迎えることも、かなうようになるはずだ。
ゆえに、その確度を、コーザはチャールティンに尋ねていた。
「タオンシャーネに向かっている最中に、うちが襲われる可能性っていうのは、どのくらいありそうだ?」
「ゼロですの」
「皆無なのか? なぜ?」
たしかに、ミージヒトには、すでにコーザがペルミテースのすぐそばにまで、近づいていることがわからないかもしれない。だが、氷結が推測したとおりであれば、ミージヒトもまた、コーラリネットにおけるコーザたちの、会話を耳にしたからこそ、追跡をはじめたものと考えられる。ゆえに、かなりの地点にまで迫ったことは明白だ。それでいて、可能性が全くないというのは、少し納得がいかない。
「ミージヒトにとって、最も避けたい事態は、コーザが戦力を手にいれてしまうことですの。このとき、仲介人と行動を共にしているコーザに対し、道中で戦いを仕掛けるというのは、端的にタオンシャーネの人たちも含め、その区別なしに襲うことを意味しますわ。これは正式に交わされたイトロミカールとの、商売を妨害していることになるのですから、仲介人たちが黙っているはずがないですの。あなたにしてみれば、これは一時的に味方を増やしたのと同義。ミージヒトが攻撃をして来る道理は、全然ないですの」
「……なるほどな」
(だからこそ、チャールティンも、マーマタロの提案を受け入れたわけか)
道中において、ニシーシの安全は、確実に保障されているということである。そして、それは同時に、仲介人たちを雇いさえすれば、ミージヒトも敵ではなくなることを意味した。
だが、そんなコーザの淡い期待も、瞬く間にチャールティンが封殺していく。コーザには先立つ物がないのだ。当然、謝礼は後払いになってしまう。
「二人で仲良く分けようとしない、妖精王からの報酬を、おもむろに対価として提示したところで、進んで協力してくれる人は少ないでしょうね。……コーザにミージヒトよりも、上回っている点があるとすれば、それは向こうよりも先に、マーマタロの知り合いに会える、という部分にありますわ。以前にイトロミカールへ来たとき、あなたの怒る声は聞こえていましたから、お相手が地下の世界全般に詳しいことは、わたくしも承知していますの。そこで、何か有意義なことが聞けたらば、それを使って、わたくしがまた案を考えますの。心配せずとも、ちゃんと手は貸しますわ」
※
イトロミカールに初めて来た当時は、
仲介人のメンツは前回と異なるが、なんとなく事情は察しているのだろう。コーザの姿を見ても、あまり驚いた表情は見せなかった。
「タオンシャーネの人間で間違いないな?」
「そうだが……」
「少し、聞きたいことがある。あんたたちのセーフティに、ゲゾール……もしくはペルミテースという人物は、住んでいるか?」
ペルミテースの所在は、ゲゾールが知っているはずなのだから、その存否を確認することに意味はない。はやる気持ちの表れだ。
仲介人は眉をしかめ、次いで仲間の顔を順々に見やってゆく。心当たりはないということなのだろう。
「いないな――」
「いいや、いるぜ」
その中で最も老齢な商人が、横から口を挟んでいた。老いたと言っても、コーザよりも二十数年の違いであり、くだんのゲゾールほどではあるまい。
「もう一人のほうは知らんが、ゲゾールだろう? ああ、確かにいる。今は名を変えているがな……。なるほど。昔、やつが自分を探しに来る人間が、いつか現れるだろうとぼやいていたが、まさか本当にそんな日が訪れるとはな」
(そうか……ペルミテースについても、今は
ということは、妖精王がペルミテースの手がかりを、何ら自分に与えて来なかったのも、ひょっとすると、待ち人の名前以外の情報は、本人さえ知らなかったからなのかもしれない。
「……」
セーフティに長居することができない。この一件があったからこそコーザは、妖精王の存在が、出口につながっていると考えられたのだ。自分よりも、得られた情報の少ないミージヒトが、なぜ同様の結論を導くことができたのか。これについては甚だ疑問だが、いずれにせよ、ゲゾールに接触すれば、おのずと解決する事柄には違いない。
いよいよ、コーザはダンジョンの神秘へと近づいていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます