第75話 マーマタロの責任

 マーマタロが静かに語る。


「あの日、ニシーシが、我慢できずにセーフティを飛びだしたのも、思えば我のせいでもある。セーフティの平穏を守るためとは言え、我という戦う術を持ちながらも、そのスキルを扱うことは、極端に制限してしまっていたからだ。その結果が先の暴走だ。これについては、我が自ら責任を取らねばなるまい。……だが、チャールティンの主張もまた、もっともなものである。ゆえに、両者の間を取り、タオンシャーネまでという制限を設けるのは、どうであろうか? ゲゾールの話を聞き、その後のプランについてまでは、我らもコーザに知恵を貸そう。チャールティンの頭脳が、大いに役立つはずだ。だが、同時にニシーシについてはそれまでとする。その後、ワープゲートを使わねばならぬような、深刻な事態になるようであれば、我らは即座に撤収だ。ただし、幸運の神がほほ笑み、ペルミテースと無事に会え、その場で妖精王にも接触できそうならば、翻って計画を強行しようではないか。十中八九、コーザのほうが、追跡者よりも先に目的を果たすだろう。さすれば、ニシーシも文句はあるまい。無論、我もタオンシャーネまでは同行するが、その道中にて、追跡者との対決が起こったとしても、ニシーシは戦いに加えない。これが我なりの妥協案だ」

「ええ……それでしたら、かまいませんわ。ですが、たとえ一人であっても、イトロミカールの人間が、攻撃系のスキルを使えてしまうということが、タオンシャーネの仲介人に知られると、後々面倒なことになりますの。道中、マーマタロには、スキルを使用しないでほしいですの」

「それは……無理じゃないか。所詮、莢の炎カートリッジは保険の一発でしかない。根源的な武器とは程遠い存在だ。仲介人はうちみたく、手ぶらで帰るわけじゃないんだから、そもそもの攻撃手段を持たない人間は、向こうが連れて行くのを遠慮したがるだろう」


 コーザはチャールティンの主張に対し、形容しがたい違和感を覚えていた。ミージヒトとの戦闘に、是が非でも、ニシーシを参加させないようにしたいという、チャールティンの意図は理解できる。だが、それはほかでもなく、マーマタロ自身がニシーシの同伴者として、保証しているものだ。まさか、マーマタロがスキルの使用を拒む中で、ニシーシに単独で戦う術があるとは、到底思えない。

 ならば、なぜチャールティンは、頑なにマーマタロを無力化したがるのだろう。自分にさえスキルの隠蔽が、無謀な発言であることがわかるのだから、こんなものはチャールティンであれば、簡単に理解できそうなところだが……何か別の思惑があるのだろうか?

 コーザの視線に、チャールティンは何も応えないまま、淡々と話をつづけた。


「でしたら、コーザには『自分の技を譲渡できる』という、方便を使ってもらうことにして、マーマタロには、一種類のスキルしか用いないよう、お願いしたいですの。事前にこの場で見せてみれば、仲介人も納得するはずですわ」

「よかろう。我もブランクがひどいからな。ニシーシを守る以上のことはできまい」


 自分の思いどおりには進まなかったが、ミージヒトを倒す算段を、ほかでもないチャールティンとできるというのは、大きなアドバンテージだ。

 本当であれば攻撃面についても、ニシーシには参加してほしかった。莢の炎カートリッジだけではない。対人戦であれば、チャールティンがまた、純石じゅんせきで何かしてくれるのではないかと、そういう期待があったからだ。だが、もはやそれは望めまい。マーマタロのおかげで、いくぶんか譲歩してもらえたのだから、今の状態で御の字としたほうがよいだろう。


「もうまもなく、タオンシャーネの仲介人が来るであろう。それまでに、汝を追っているとする人物について、我らに話すべきものもあるのではないか? 刺客として放たれたのだ、相当な手練れであろう?」


 マーマタロに促され、コーザはおもむろに口を開く。


「名はミージヒト。まず間違いなく、妖精の瞳を持っていると思われる人間だ」

「あら、それは大変に危険な相手ですの」


 瞳を持たないというコーラリネットの事情は、この場のみなが知っている。

 目を見開くニシーシとは対照的に、一切の驚きを示さなかった、孤独なチャールティンのことが、コーザにはとても恐ろしく感じられた。

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